十二話:狂気の笑み
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すぎる理想を背負いながら歩き続ける無謀さが。
理想以外に縋るものが存在せずに全てを捨てて逃げることすらできない愚かさが。
その無様な人間らしさが何よりも人の生の可能性を示しているように感じられるのだ。
故にスカリエッティは衛宮切嗣の“命”を堪能したいのだ。
彼に死という物語の終わりが訪れるその時まで。
「そこで私は君に問いたい。もしも―――八神はやてを救う手段があればどうするのかと」
「なん…だって…?」
「ん? 少し分かりづらかったかね。“夜天の書”はその呪いから解き放たれ、少女は人並みの幸せを謳歌する。そんな未来に至る方法があればどうするかと聞いたのだよ」
自らの問いに茫然とする切嗣に異形の笑みを浮かべながらこれでもかと言わんばかりに丁寧に繰り返す。
その顔だけでこの問いかけの為にわざわざ来たかいがあるというものだ。
「お前がそう言うということは―――あるんだな?」
「くくく、その通り。夜天の書について調べたが私の理論通りならば救えるはずだよ」
「……確実にか?」
「しかるべき準備をすれば確率は上げられるだろう。私に任せてくれるのならば100%成功させて見せよう」
いっそ傲慢とも言える程の圧倒的な自信。
しかし、悪魔の頭脳を持つ彼ならばそれを語るに相応しい力を持っている。
勿論ただで動く気はないが受け持った仕事はしっかりとこなす程度の信念は持ち合わせている。
「……万が一にも失敗はないと言い切れるかい?」
「ふむ、万が一か。私も研究者の端くれだ。絶対という言葉がないことだけは知っているよ」
絶対という言葉を打ち破るために研究者は日夜研究しているのだ。
その気持ちだけは鬼才である彼も変わらない。
それを聞いた切嗣は揺れ動いていた心を無理矢理に抑え込む。
「そうか……なら―――僕は予定通りに娘を殺す」
何も映していない死んだ瞳で“父親”はそう断言する。
しばしの沈黙の後、スカリエッティは狂わんばかりに嗤い始めた。
全て予想通りだった。だが、つまらなさなどまるで感じない。
この選択がどれだけの絶望を意味するのかを理解してなお男は選んだ。
誰もが通ることを憚る棘の道にさも当然のように素足で踏み込んだのだ。
犠牲と救済の両天秤の計り手はその上に迷うことなく娘を置き、切り捨ててみせた。
それが堪らなく可笑しかった。堪らなく―――愛おしかった。
「ふふ、くくくっ! 理由を聞いてもいいかね」
「万が一の奇跡でも世界が滅びるというのなら僕はその可能性を徹底的に排除する」
「はははっ! 君は名も知らない誰かの為に、最愛の娘を生贄にすると言うのだね!」
「……そうだ」
素晴らしい、素晴らしい。凡そ人間が下す決断
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