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恋姫†袁紹♂伝
第29話
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文若!)

 先程の桂花の言葉、あれはただ断りを入れただけではない。
 『待遇で誓いを反故にする者など、曹孟徳には値しない』この言葉によって、断られた華琳の面目は守られ、これ以上の勧誘を縛ったのだ。
 勧誘を続ければ華琳の名に傷が付くだろう。待遇で鞍替えする『程度』の者を望むのかと、それは彼女の誇りが許さない。

 桂花はあの短いやり取りで、自分の意思を伝え、華琳の顔を立て、次に来る勧誘の言葉を断ち切ってみせた。

「貴女の意思は良くわかったわ。確かに、その『程度』の者など私の軍には相応しくないわね」

 ここまで見事に切り返されたのだから、『今回』は諦めよう。しかし、やられてばかりなのも曹孟徳の名が許さない。

「それにしても冷たい主ね。家臣が勧誘されていると言うのに、何も口にしないなんて」

「……」

 それは桂花にも気がかりだった事だ。彼女が以前斗詩や猪々子に聞いた話しでは、二人を欲した華琳に食って掛かったという。
 
(でも、私には……)

 桂花は主に心酔している、もしやこの想いは一方通行なのだろうか。聡いだけに考え出すと思考が止まらず、桂花の表情は暗くなっていった。
 それを確認して華琳は口角を上げる。これで袁紹が慌てればそれで良し、その惨めな姿に免じて仲を取り持ってやろう。我ながらやり過ぎた気がするし……と、反省しているのか良くわからない事を考え――目を見開いた。

 袁紹が不敵な笑みを浮かべている。それは華琳の予想していた表情ではない。

「桂花の答えは始めからわかっていた。我が口を出すまでもあるまい」

「麗覇様……」

「……」

 その言葉に顔を蕩けさせる軍師、内心舌打ちする覇王。

 私塾にいた頃の袁紹なら慌てふためいたかもしれない。しかし彼も華琳と同じく多くを学び、育んできた。
 此処に居るのは華琳の良く知る袁本初未熟者に在らず。数多の奇跡を成し遂げてきた袁本初袁家現当主だ。

(まあいいわ、いずれ貴方も含めて私のモノに――)

 確かな信頼と絆で結ばれている、袁紹と桂花の姿に苛立ちが収まらない。
 華琳はそれを自分の悪戯を利用されたから――と自己分析したが、実は別の感情であることを、この時の彼女はまだ知らなかった――



 
   
 
 
 


 

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