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戦国異伝
第二百二十九話 隠されていたものその十

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 信長は上洛の話を天下に伝えた、すると誰もが思った。
「いよいよか」
「将軍になられるのか」
「もう桐の紋がある」
「鬼切も持っておられる」
 源氏の棟梁が持っているその刀もだ、信長は持っているのだ。
「では源氏と称され」
「幕府を開かれるか」
「そして将軍となられるか」
「征夷大将軍に」
 信長がだ、そうなるというのだ。
「そして特別として関白になられるか」
「五摂家だけがなれるが」
「織田様ならばな」
「そうもなれる」
「関白にも」
「関白になれずともな」
 それでもというのだ。
「太政大臣にはなれる」
「将軍、そして太政大臣にか」
「なられるか」
「幕府も開かれ」
「役職、官位のうえでもな」
「天下人になられるか」
「遂に」 
 こう話すのだった、誰もが。最早信長が上洛により天下人になることは誰が見ても明らかのことに思われた。
 それはだ、丹波にいる明智も同じだった。彼は居城である八上城において笑顔で自身の側近である斎藤利光、そして明智秀満に言ったのだった。
「これはよきことじゃ」
「はい、上様が幕府を開かれてです」
「征夷大将軍になられ」
「そしてです」
「将軍になられ」
「太政大臣にもです」
「なられれば」 
 それでとだ、斎藤と秀満も応えたのだ。
「名実共に天下人にですな」
「なられますな」
「我等にしましても」
「これ以上はないまでに嬉しきこと」
「この時の為に戦ってきましたし」
「ようやく天下が真の意味で確かになりますな」
「そうじゃ、やはりよい」
 笑顔で言う明智だった、そして。
 あらためてだ、こう言ったのだった。
「そして間違いなくな」
「はい、天下が収まれば」
「上様が名実共に天下人になられれば」
「その時はですな」
「牛助殿、新五郎殿達も」
「赦して頂ける、そもそもじゃ」
 織田家きっての切れ者の一人とされている明智ならば容易に察することだ。それでそのことを言ったのである。
「お三方の追放はな」
「訳がわからぬことですな」
「追放の理由がわかりませんでした」
「そして密かにです」
「久助とのや孫市殿と連絡を取っておられましたし
「そうじゃ、しかしそれも終わりじゃ」 
 信長が役職、官位でも天下人となればというのだ。
「牛助殿達も戻って来られる」
「では、ですな」
「我等はここで」
「上様の上洛を見守り」
「幕府が開かれる時を待ちましょう」
 三人でこう話していた、明智もただ喜んでいた。そしてだった、斎藤と秀満に対してこうしたことも聞いたのだった。
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