僕 3
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視界にも僕と同じ青い海が広がっていることが分かった。当たり前が減ってきている今の状況には、まだ失っていない当たり前があるのは、何よりも喜ばしかった。
「座る、疲れた」
彼女はベンチに腰を下ろし、自己主張のない胸を反らした。
「座る?」
今度は彼女のエスパーも発動しなかったらしい。おとなしく僕も隣に座る。
「あんたもさー」
彼女はだるそうに言った。
「ん?」
「よく飽きないね」
「君といて?」
「そう、私といて」
「飽きないよ」
「なんで」
返答に詰まった。なんと答えるべきか、僕が真面目に答えたとしても冗談として処理されるから困ったものだ。日常的にふざけるのも考えものだ。
「まあいいけど」
彼女の中で自動的に処理されたようで助かった。言葉の優しさは苦手だ、他人を傷つけることがあるから。気持ちを言葉に変換しても、それで正しく伝わるわけじゃないから。ということをこの間読んだ小説に書いていた。なかなかの正論だと思う。だからこそ今の僕は。
彼女とアイスを食べることにしよう。そう思い僕はベンチから腰を上げた。
「どしたの?」
「お花摘みに行ってくる」
女の人限定のセリフだっただろうか、まあいい。僕はトイレに行くふりをしてアイスを買いに売店へ向かった。
歩いてすぐの売店には親子連れが多く、少し並ぶことになった。今の彼女のことだ。うたた寝をしている可能性は大いにある。落書き用のマジックを持ってこなかったことを後悔した。
十分程経って、お互いの好きなストロベリーのカップアイスを買いベンチへと向かった。ストロベリーの素晴らしさについて小一時間彼女と議論したのはとてもいい思い出だ。というか昨日のことだけれど。
少しあわてて走ってきたので、少し息切れをしながら僕は彼女のいたベンチへ到着した。座っているはずの彼女の姿を僕は探した。ベンチだけでなく周辺も。
彼女はどこにもいなかった。
なにか機嫌を損ねることをしただろうか、自らの発言を振り返ってみたが心当たりはない。トイレだろうか?とりあえず僕はベンチに座り、待つことにした。
三十分くらい経っただろうか、彼女は姿を現さない。アイスが溶けてジュースを注いだと言っても疑われないほどの形状になってきている。電話をかけてみる、電源が入っていなかった。公園で遊び回っている子どもや高校生の声を聞いていると、異常な脱力感に襲われた。
眠ろう。これは彼女が今、僕の顔が見たくないという明白な意思表示だ。彼女が僕との約束を守らなかったりしたことは初めてじゃない。気まぐれな彼女の当たり前の行動なんだ。そう僕は自らに言い聞かせて目を閉じた。
その先には当然暗闇があった。太陽の光のせいで、ほんの少しだけオレンジ色が入る。そして頭から足の先まで、日差しが僕を温め出した。
その心地
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