暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第128話 勝利。そして――
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戦闘中。腕の中の少女に意識の内のいくらかを割いている、と言う事を敵に、そして彼女にも気付かれるのはあまり良い結果を招くとは思えない。
 そして……。
 表面上は何も変わりないポーカーフェイスを貫く俺の内心に気付くはずもないハルヒが、更に続けた。
 語気は強くなく、普段の俺を相手に話している、何故だか妙に不機嫌な、……と表現すべき様子とはまったく違う雰囲気で。

「アイツが人間じゃない事は理解している心算よ。アイツが傷付き、血を流すシーンをあたしに見せたくない、なんて考える必要はないわ」

 まるで伝奇小説の一場面。空想上の存在が現実の世界に這い出して来た。そう言う状況なのでしょう、今は。

 胆が据わって居るのか、それとも既に……自らが囚われた段階で覚悟が完了していたのか、俺の必要のない気遣いを止めろと言うハルヒ。
 口調も強い訳ではなく、むしろ普段よりも冷静な雰囲気で。

 しかし――

 いや、そんなはずはない。そんなに簡単に割り切れる訳がない。
 何故ならば、これは夢の中の出来事などではないから。今、現実に起きて居る事。確かに魔法や、その他の特殊な事象が関わって来ているけど、実際に俺とハルヒの目の前で展開しているのは、野太刀を構えた狂人が俺たちふたりを殺そうとしている状態。
 いくら頭では理解していたとしても、犬の首だけの生物の目撃。壁や床すら透過して大地の下を奔り抜ける、と言う事を経験。その後に夜空に放り出されて、今度は同級生と共に氷空を飛ぶ。
 普通の人間なら多少は精神に異常を来たしたとしても不思議ではない状況。意味もなく叫び声を上げ、家に帰してくれ、と、ただただ懇願し続けるような状態に成って居たとしても俺は彼女を責める事はなかったでしょう。
 科学と理性により作り出された現代世界から、突如魔法が支配する神話上の世界へと放り出されたのだから。

 それに、俺だって人型をした人外の存在に対して剣を振るうのは未だに躊躇いがある。人間相手ならば言わずもがなだ。それを、いきなり巻き込まれただけのハルヒが覚悟を決められる訳がない。
 ……似合わない事を言いやがって。

「どうや、素人扱いの理由が理解出来たか?」

 ハルヒの言葉に答えを返す事もなく、必殺の一撃を躱された挙句、頭を踏み台にされた青年に対して、背中から声を掛ける俺。彼我の距離……十メートル近く離れた距離をゆっくりと詰めつつ、口角には薄い笑みを浮かべながら。
 おそらく振り返ったヤツの瞳には、その笑みや、相変わらずハルヒを抱き上げたままゆっくりと近付いて行く姿が、俺の余裕の現れや、無様な自身に対する侮蔑に見えるだろう、……と言う事を意図しながら。

 現実には、俺の罪……生命ある存在を屠る事に対する罪の一部を受け持つ、と言ってくれた少女に対す
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