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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第128話 勝利。そして――
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 冬の属性に染まった大気。左右から黒々と迫る、ほぼ人の手の入って居ない広葉樹の林。そして、妙に蒼白い人工の明かりに支配された、まったく車通りのない片側二車線のアスファルトの道路。
 煌々と照らす――。完全に合一したふたりの女神が支配する冬の蒼穹からは、しん、とした真夜中の静寂が降って来ていた。

「素人かどうかは実際に戦ってから判断しても遅くはない、と思うけどね!」



 犬神使いの青年がその言葉を発した瞬間、それまで人が良い、としか表現出来なかった青年から発せられていた雰囲気が変わった。
 これは狂暴な、と表現しても良い戦意。

 双方の距離は約五メートル。遅ればせながら後退を始めた俺の回避行動を嘲笑うかのようなスピードで、その距離を一気に詰めた青年が目の前で僅かに重心を下げ――
 その瞬間、俺の左側頭部の有った空間を斜め下から蹴り上げられたヤツの右脚が空を切った。

 長刀を手にしながら初手は上段への蹴り! 
 更に、初手が空を切らされたぐらいで青年の戦意を挫く事など出来なかった。そのまま左脚を軸に華麗に一回転。今度は地を這うかのような一撃が俺の膝を狙う。

 しかし、その程度の連撃を躱す事など、俺に取っては児戯に等しい。悪いが、俺の人生……今回の人生以外のかなりの人生でも戦いに明け暮れた人生。この程度の技量を持つ敵など、その人生毎に何度も刃を交えて来た。

 そのすべて……とは言わないが、総計で言えば勝ち越して来ているのは間違いない。

「なぁ、ハルヒ」

 軽く空中でトンボを切り後方へと回避する俺。一時的にゼロに成った彼我の距離がもう一度三メートルにまで開く。
 その場で余裕を示すかのように軽く猫立ち。二、三度身体を揺するようにジャンプを繰り返した後、
 大きく息を吸い込み……ゆっくりと吐き出す。

 そして……。

「出来る事なら、戦闘の最中は目を閉じて置いた方が良いぞ」

 俺の戦い方は上下左右が目まぐるしく変わる。これでは視線が一定に保てないから、どんなに三半規管が強くても普通の人間では気分が悪くなる。
 蹴りに因る連撃をあっさりと回避され、大きく体勢を崩した青年。しかし、俺の方にも攻撃に転じる余裕も、そして、そんな心算もない状況故に、その場で更に一回転した次の瞬間には体勢を立て直して仕舞う。
 その様子から感じられるのは、かなりの戦闘力を秘めている相手、だと言う事ですか。

 そして――

 再び、長刀をアスファルトの道路を引きずるようにして彼我の距離を詰めようとする青年を、その視線の中心に納めながら、自らが抱き続ける少女に話し掛ける俺。

「そんな心配なら無用よ」

 しかし、その頼みをあっさりと却下して仕舞うハルヒ。
 火花すら飛ばしながら引きずって来た長
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