巻ノ十八 伊勢その三
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「そうしたものじゃな」
「いや、参ってよかったです」
伊佐も述べた。
「前もここに来ましたが」
「何度来てもよいと」
「神聖な場所には」
伊佐は微笑み筧に答えた。
「何度来てもいいものです」
「確かに。それがしも何度も社や寺に参っているが」
「よいものですね」
「それだけで心が清らかになる様な」
「左様です、では」
「中に入っていくか」
「これでまだ入口というのがな」
一行はまだ入口にいるのだ、だがそれでも社は相当に大きくてだ。幸村は唸る様にして家臣達に述べた。
「違うな」
「ですな、これで入口というのが」
「他の社とは違います」
「ここまで大きく清らかな社はです」
「他にありませぬ」
「そうじゃな、では皆で中に入ろうぞ」
社のその奥にさらにというのだ。
「そして参るぞ」
「はい、では」
「これより」
「先に進み」
「全て参りましょう」
社の中の全ての場にというのだ。
そうした話をしてだ、そのうえだった。
一行は高い木々が生い茂る神宮の様々な社を一つ一つ参った。どの社も立派だが比較的新しい造りが多い。
その造りを見てだ、幸村は言った。
「新しいものが多いのはな」
「はい、この社は近頃まで荒れていました」
筧が幸村に答えた。
「神宮全てが」
「だからだったな」
「前右府殿が銭を出されて普請をされたので」
「新しく建てられてじゃな」
「どの社も。ですから」
「この様になっておるな」
「そうなのです」
こう話すのだった。
「ここは」
「戦乱のせいで荒れる場は多いな」
「都もこの前までそうでしたし」
「戦が多くしかも長引いてよいことはない」
ここでもこう言った幸村だった。
「だから泰平が一番じゃ」
「まことにそうですな」
「うむ、それとな」
「それと?」
「長谷寺で尼僧殿に言われたことじゃが」
「社の細かいところまで、ですな」
「見ようぞ」
「そうしております、ただ」
猿飛は幸村に答えた、実際に社の中の隅から隅までそれこそ木の苔までじっくりと見ている。そのうえでの言葉だ。
「見るものが多く大変ですな」
「確かにな」
「これだけ見るものが多いと」
大変だというのだ。
「実に」
「うむ、しかしな」
「見ていると、ですか」
「色々と学べる」
こう言うのだった。
「ここは」
「ううむ、それがしにとっては」
猿飛は考える顔で述べた。
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