§67 船頭多くして船山に登る
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…しょうがない」
幸いまだドニの切り裂く銀の腕による権能封印を破壊した効果はもう少し残りそうだ。
「少し頭冷やさせるか」
顕聖次郎神君の権能で変化。斉天大聖の姿になる。腰に括り付けてあった瓢箪を手に取って。
「ドニ、翠蓮」
「なんだい?」
「なんでしょうかお義兄様?」
声に応えれば、それで終わり。
「君たち近所迷惑を考えなさい。少し頭冷やそうか」
黎斗の呟く声と同時に、瓢箪が二人の魔王に狙いを定める。
「うわっ!!?」
「きゃっ!?」
抵抗は出来たかどうかも疑わしい。あっという間に吸い込まれ、静けさが一瞬で戻ってくる。
「っ……」
「あー……ごめん恵那」
そういえばこの姿は恵那には嫌な思い出か。身体乗っ取られて大暴れとか黎斗だったらトラウマになりかねない。
「大丈夫。れーとさんについてくなら、この位で弱ってられないよ」
そう言って、弱弱しながらも笑みを見せる恵那。マジキチばっかり見てきたせいで、恵那が凄い女神に見える。この子はそうまでして自分と一緒に居てくれるのか。
「そ、っか…………」
変化を解いて、恵那をじっと見る。こうしてまじまじと見るのは初めてかもしれない。ここまで純粋な意味での好意を持ってくれた人はいつぶりだったか―――――
「恵那。ぼくううおおおおおぉぉぉ!!?」
恵那に声をかけようとした瞬間。腹部に重い一撃。身体が弾け壁に弾ける。鮮血で染まる白亜の塗り壁。
「……せっかく良い雰囲気になりそうだから黙ってたんですが。流石にそうは問屋が降ろしませんね」
苦笑染みたエルの視線の先には、煤だらけのドニと泰然とした様子の羅濠教主。煤程度で済むドニも大概だが無傷で余裕たっぷりの羅濠教主はいったいなんなんだろうか。
「黎斗、いきなり狭い部屋に押し込めないでよビックリしたじゃん。しかもなんかヒリヒリする部屋だし。入れられた瞬間に姐さんが三馬鹿見る目でこっち見るし」
「お義兄様。この某と一緒の場所にいれないでくださいませ。これでも私。汚れを知らぬ乙女なのですから。お義兄様や護堂以外の者と一緒の部屋など、それだけで身の毛もよだつ思いです」
「マスターも頭冷やせ、ってニュアンスでしか使ってないようですが……これ即死攻撃のハズなんですが」
ドン引きするエルと、その発言を聞いて凍り付くアンドレア。
「偉大なる眷属様。神殺しの方々を我々の常識で計るだけ無駄というものです」
厳かに告げるビアンキに「それもそうですね」と呆れを返すエル。若干頬を染めた恵那が、苦笑しながらその光景を眺めていた。
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