暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
歯車を止めて
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まえ」と目線で訴えている。
 怒号を交わさないのは賢明な判断だね。落ち着かない態度と顔色からして彼、本当に何も聞いてないっぽいし。責めても困った顔が返ってくるだけで、状況に変化は望めないと思うんだ。
 マリノア王室は、創国期から代々敬虔なアリア信徒。教会運営に関わる資金提供も惜しみなく、アリア信仰の危機と聞けば国王軍をもあっさり動かしてしまう程の心酔ぶりで有名。
 ……だったのが、いきなり金銭以外は知らぬ存ぜぬを宣告して来た。
 焦りもするよねぇ。これじゃ、アリア信仰を護っていた剣の一本が突然鞘に収められ、鎖で厳重に封じられたようなもの。世界各地で鬼気迫る異教徒との睨み合いが始まっている今、自衛目的の微々たる力しか持たないアリア信徒達にとっては厳しい決定だ。
 寄進を続けるなら信仰を捨てたのとは違うんだろうけど……マリノアの地方教会が知ったら、ちょっとした混乱になりそう。
 「ご覧いただいた通り、マリノア王室の方々は一連の騒動に対して不干渉の姿勢を取るとの判断をなさいました。この件を念頭に置いて議論を進めたいと思います……が、実はつい先程、同様の急伝が他にも二本届きました。書類作成が間に合わない為、口頭での報告となります」
 マリノアに次いで敬虔さを評価されているシャフィール王室とベラディ王室も、寄進続行と荒事不干渉を決めた。バークレル大司教を問い詰める側だったそれぞれの大司教が面食らって、そんな馬鹿なと陸に上げられた魚みたく、口をパクパクさせる。
 ……ふむ。
 大戦の痛手を残しているとはいえ、それでも信仰を捨てなかった彼等が、全く同じ内容の方針を、この危うい時期に打ち出したか。
 正直、この三国が手を退く事実だけで議論する意味なんて綺麗さっぱり無くなるんだよね。主立った剣も盾も失ってしまった以上、答えは一つ。
 何もせず、何をされても不動を貫く……しかない。
 抵抗も反抗も状況悪化の材料にしかならないし、王室の協力を得られないなら調査隊の活動も制限されてしまう。
 「複雑……」
 「そうだね」
 ポソッと呟いた言葉を拾って、タグラハン大司教が小さく頷く。
 元々傍観してたほうが良い派の私達だけど、仮に異教徒達の一方的な暴動が始まったら、アリア信徒の我慢が何処まで保つか。
 大人しい人間は暴力の標的になりやすい上、加害側は暴力に悦楽を感じる人間が多い。
 と言うと語弊があるか。相手の痛みよりも自分の一時の感情を優先させてしまう激情派が多い……とでも改めよう。
 抵抗しないならもっとやるぞって衝動が何処から生まれるのか知らないが、荒事に身を置くと冷静に物事を見定める能力が著しく低下するから厄介なんだよね。それでいて抵抗すると余計に暴れる。
 神に仕える者の正義感が後押ししてるから引っ込みつかないし、つける気も無いと思う
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