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一人でも
第一章
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                 一人でも 
 仙人と聞いてだ、村の子供の一人平六はこう言った。
「仙人なのに一人なんだ」
「そうだよ」
 祖父の与平が答えた。
「仙人様はいつも一人で山の奥に暮らしてるんだよ」
「そうなんだ、けれど」
「仙人だぞ」
 与平はこのことは断った。
「千人じゃないぞ」
「字が違うんだ」
「そうだ、そこは間違えるなよ」
「仙人で千人じゃないんだね」
「そこはわかっておけよ」
「うん、それで仙人様は山の奥にいるんだね」
「この村の近くの山にもおられるぞ」
 与平は平六にこのことも話した。
「一番高い天狗山にな」
「ああ、あの山になんだ」
「そうだ、仙人様がおられる」
 その山にというのだ。
「とても立派な仙人様だぞ」
「じゃあおら達そこに行けば仙人様に会えるんだ」
「会えるぞ、しかしな」
「しかし?」
「おめえひょっとして天狗山に行きたいのか?」
 与平は眉を曇らせて平六に尋ねた。自分そっくりの顔の孫に。
「あの山に」
「おら仙人様に会いたくなった」
 これが平六の返事だった。
「だからあの山に行きたいよ」
「いや、それはな」
「駄目なのかい?」
「子供は山に一人で行くな」
 与平は平六に咎める様にして答えた。
「熊や狼が出るからな」
「それでなんだね」
「危ないからな。だからおめえいつも山に入る時はわしかおとうに連れて行ってもらってるだろ」
「ごんと一緒にな」 
 家で飼っている大きな犬だ、白い毛並みでとても賢い犬である。
「そうしてるな」
「おら達が鉄砲を持ってな」
「じゃあおらが天狗山に行くとしてもなんだ」
「一人では絶対に行くな」
 与平はそれだけはとだ、平六に強く言った。
「わかったな」
「うん、じゃあ天狗山は」
「どうしても行きたいならおらと一緒だ」
「おじいが一緒に来てくれるんだ」
「天狗山はあけびや栗や茸がたんまりあるからな」
「それを採るからなんだ」
「どっちにしろ行きたいと思ってたところだ」
 こう孫に言うのだった。
「それならいいな」
「じゃあ丁度よかったんだね」
「そうなるな、しかしわかってるな」
「うん、山にはだね」
「子供は絶対に一人で入るな」
 与平はこのことは強く念押しした。
「さもないとどうなっても知らないからな」
「わかったよ、熊や狼がいるからだね」
「蛇もいるし猪もおる」
 そうした生きものもというのだ。
「あんな怖い場所はそうはないんだぞ」
「山ってすぐ傍にあるのに」
 平六は村の周りにある山々を見た、平六達の村は平地にあるが少し行くと山が連なっているのだ。その山々を見ての言葉だ。
「怖い場所なんだね」
「いいものは一杯あるけれどな」
「だから子供は一人で入った
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