第六章
[8]前話
「完全に妖怪の時間よ」
「それはわかるよ」
妖怪は夜に出るものとだ、達也も子供の頃から聞いている。それで彼にしてもこのことについては言うまでもなかった。
「やっぱり夜はね」
「妖怪の時間でしょ」
「それでその妖怪の時間がはじまるのが」
「逢魔ヶ刻なのよ、言うなら妖怪の世界が開く時間なのよ」
「何か普通に夜歩くより危ない感じがしたけれど」
「それぞれの世界の間だから不安定だからね」
そのこともあってというのだ。
「そうした面もあるのよ」
「そうなんだね」
「けれどこれで実体験でわかったでしょ」
「うん、暗くなるまでに家に帰った方がいいね」
「夜もよ。出来るだけ寄り道をせずにね」
そうしてというのだ。
「家に帰るべきなのよ」
「自分達のお家に」
「そうよ、じゃあお父さんはもう帰ってるから」
母はその家の話もした。
「帰ったら御飯よ」
「うん、それじゃあね」
達也は母のその言葉には笑顔で頷いた、確かに怖い思いはした。だが。
その怖かった気持ちよりも次第に家に戻って晩御飯を食べてお風呂に入り日常に戻りたいという気持ちが強くなっていた、それで母にこう尋ねた。
「それで晩御飯何?」
「ポークチョップよ」
母はそのメニューを答えた。
「それと中華風のサラダよ」
「ああ、サラダもあるんだ」
「そう、デザートは林檎よ」
「いいね、じゃあね」
「帰ったら皆で食べましょう」
「そうしようね」
達也は母に笑顔で応えた、そうして今はその晩御飯やお風呂のことを考えていた。車の外の夜の世界は明かりと人は見えていた。しかしもう人以外の存在は見えなくなっていた。逢魔ヶ刻の微かに残っていた光の中には見えていたが今はもう見えなくなっていた。
だがそうした存在がいることは達也は知った、しかし今は家に帰ってからの日常のことを強く思うのだった。
逢魔ヶ刻 完
2015・6・15
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