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ストレスが消えて
第一章

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                 ストレスが消えて
 美作庵は高校で軽音楽部に所属して青春を謳歌している、バンドを組んでいて担当の楽器はベースだ。髪の毛の上の部分を伸ばし整髪料で前に固めている。ただし色は染めておらず黒のままだ。
 目は細く鋭い、そして唇は引き締まり細面だ。背は一八〇近く細いが引き締まった身体をしている。だからバンドの服も似合っている。
 だが彼は今部活の中でだ、極めて不機嫌な顔でだ。
 憮然としていた、その様子はさながら。
「動物園に入りたてのオランウータンか?」
「ゴリラじゃないのか?」
 周囲はこう言うのだった、他の部員達は。
「とにかく凄い不機嫌だな」
「あいつ阪神ファンだけれど阪神三連敗だしな」
「カープ相手にな」
「それのせいか?」
「首位から陥落したしな」
「そのせいでか」
「いや、それでもな」
 しかしとだ、ある部員がこうも言った。
「あの不機嫌さはな」
「阪神だけじゃないか」
「三連敗と首位陥落だけじゃないか」
「そっちも相当だけれどな」
「それだけじゃないか」
「便秘じゃないのか?」 
 一人が言って来た。
「それも一週間位な」
「ああ、便秘か」
「それも一週間になるときついな」
「もう出て欲しいけれど出ない」
「俺四日はあるけれど嫌になってきたよ」
「それが一週間になるとな」
 それこそ、というのだ。
「もう苦しいだろうな」
「地獄の苦しみだろうな」
「それこそな」
「もうな」
「ああ、それはな」
 それこそとだ、こう話してだった。
 黙り続けている美作を見てだ、彼等はこうも話した。
「しかも飼ってる猫に噛まれたとかな」
「いつも可愛がってる猫にな」
「猫って気まぐれですぐに噛むからな」
「引っ掻いたりな」
「あとあいつの家串カツ屋だけれどな」
 両親がやっている店だ、勿論彼自身部活が終わったり休日には店に出て働いている。跡を継ぐことはもう決まっている。
「そこで二度漬けする馬鹿がいたとかな」
「ああ、それきついな」
「人として最悪だな」
「絶対にやっちゃいけないことだな」 
 それこそ甲子園で巨人を応援するか銭湯で風呂上がりに濡れたタオルで股を勢いよく叩く位に、である。
「そうしたこともあったか?」
「だからあそこまで不機嫌か?」
「阪神、便秘、猫、二度漬け」
「数え役満達成でか」
「そうだ」
 ここでだ、その美作自身が答えてきた、それも不機嫌そのものの声で。
「全部入っている。何故わかった」
「おい、全部かよ」
「きついなそれ」
「俺達冗談で行ったのにな」
「全部入ってるのかよ」
「それは幾ら何でもあれだろ」
「きつ過ぎるだろ」
「阪神はあの様だ」
 美作は今にも人を殺しそうな物騒な顔で言った。
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