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ある筈がないが
第三章
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「何と、ここは」
「よりにもよって」
「あそこではありませぬか」
「教皇庁ですぞ」
 石造りの街の中でとりわけ壮麗な姿を見せている、近くには堅固な城塞として知られているサン=タンジェロ城もある。
 その教皇庁を見てだ、家臣達は主に言った。
「その教皇のいる」
「まさに神のいる場所です」
「ここにですか」
「旦那様が我々にお見せしたいものがある」
「そうだというのですか」
「左様、ではだ」
 ベルゼブブだけが余裕のある顔だった、そして。
 その顔でだ、家臣達に言った。
「ではこれより姿を消すか小さな虫の姿になって中に入ろう」
「まさか教皇庁の」
「この中にですか」
「入るのですか」
「これより」
「まだ昼じゃが気配ははっきりと感じる」
 教皇庁のその中にというのだ。
「では入ろうぞ」
「旦那様がそう仰るのなら」
「では」
「我等もです」
「姿を消します」
「ではな」
 こうしてだった、一行は実際に姿を消してだった。そのうえで壮麗な教皇庁の正門を何なく通り過ぎた、門番達も気付かなかった。
 教皇庁の中は壮厳であり様々な芸術品で飾られていた。壁や床の石も見事なもので天井には見事なシャングリラもある。
 家臣達が見る限り神聖な趣だ、だが。
 彼等もだ、その中を進みながら言った。
「見たところ神聖だが」
「見ただけだな」
「何か何もない」
「空虚だな」
「そんな感じだな」
「むしろ」
 彼等が感じるものは。
「街の匂いと同じだな」
「腐った匂いがする」
「どういうことだ、これは」
「それにだ」
 彼等は耳も聴かせた、すると。
 妙な教皇庁では聴けぬ筈の声が聴こえて来た。それは神を賛美する歌でも音楽でもなくだった。
 下品な歌だった、曲の感じも。
 猥雑、いや猥褻な歌詞で女達がはしたなく歌っている歌だった。彼等はその歌を聴いてお互いに顔を見合わせて言い合った。
「何だこの歌は」
「賛美歌ではないぞ」
「神を讃える歌ではない」
「贅沢と美食、それにだ」
「荒淫を喜ぶ歌だ」
「酒場の歌か?」
「それとも娼館での歌か?」
 そうとしか思えない歌だった、彼等にしては。
「教会で歌う歌ではないぞ」
「とてもな」
「それが何故聴こえてくる」
「しかも女の声で」
「教会に女がいるのか」
「そんな筈ないが」
「教会は女人禁制な筈」
「それがどうしてだ」
「教皇の間に行けばわかる」
 ベルゼブブは先頭を進みつついぶかしむ彼等に言った、彼等は姿を消したままなので擦れ違う聖職者は兵達は気付いていない。
「その時にな」
「教皇ですか」
「神の代理人ですか」
「その場に行けばですか」
「全てがわかるのですか」
「面白いものが見える」
 ここではだ、ベルゼブブ
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