暁 〜小説投稿サイト〜
第三章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後
「あれはいいぞ」
「鬘は」
「鬘を被るべきだ」
「それではだ」
「我々も被ろう」
「髪の毛があろうとも」
 こうしてだった、髪の毛がある被る必要がない筈の者達も被ってだ。それで誰もが鬘を被る様になった。
 フランスの宮廷の貴族達は皆鬘を被る様になった。その状況を見てだ。
 王は複雑な笑みを浮かべてだ、宰相であるリシュリューに言った。
「このことは考えていなかった」
「誰もがという状況は」
「そうだ、全くな」
 こう己の前に控えるリシュリューに話した。
「想像もしていなかった、余だけがな」
「そうなのですね」
「頭を隠したいと思っていた」
「それで被られたのでしたね」
「それだけだった」
 あくまでだ、そうだったというのだ。
「結局な、だが」
「それが今では」
「この通りだ」
 宮廷のどの者達もというのだ。
「被っている」
「面白いことに」
「そうだ、もうこうなるとな」
「髪の毛の有無ではなく」
「お洒落だ」
「その問題になっていますね」
「それぞれ様々な色、様々な形の鬘を被っている」
 そうしてその被ることを楽しんでいるのだ。
「それがな」
「思わぬ展開ですな、ただ」
「ははは、枢機卿はか」
「私は関係ありません」
 リシュリューは笑って王に答えた。
「全く」
「僧侶だからな、枢機卿は」
「剃っていますので」
 頭のつむじのところをだ、それが彼がカトリックの聖職者であることを示している。その緋色の法衣と共にだ。
「ですから」
「鬘はしないな」
「私は」
「そうだな、しかしな」
「宮廷では最早」
「鬘は定着した、だが」
 ここでだ、王はまた苦笑いになった。そしてだ。
 鬘から飛び出てきた小さなものを横目で見つつだ、こうも言った。
「もう一つ定着したものがあるな」
「蚤ですな」
「隠すことはいいしお洒落になることもいいが」
「巣になることは」
「さらに考えていなかった」 
 その蚤のことを思いつつの言葉だ。
「困ったことだ」
「実際髪の毛には付きものですからな」
 蚤がだ、この時代の欧州の者達は滅多に風呂に入らない。ルイ十三世にしても風呂は数年に一度といったものだ。
 それでだ、リシュリューも言うのだ。
「本来の髪の毛もです」
「蚤が付くからな」
「ですから」
「鬘にもだな」
「はい、付きます」
「虱もな」
「このことはどうかしないとな」
 こうも思う理由は簡単だ、いれば痒いからだ。
「大変だ」
「ではそこも何とかするということで」
「智恵を求めるか」
「そうしましょう」
 リシュリューも応える、そして。
 王の周りに今度は蚤取り機が差し出された、王はそれを見て言うのだった。
「これで安心だな」
「蚤をかなり減らせます
[8]前話 [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ