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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十六話 深謀遠慮
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帝国軍はやはり時間稼ぎをしようとしている。おそらくは別働隊によるハイネセン攻略を容易にするためだろう。
「通信は平文で打たれていたそうです。わざとでしょう、こちらに知らせる為だと思います」
「焦らせるためかね?」
「はい」
「厭らしい事をする、それだけ手強いのだろうが……。友人には持ちたくないタイプだな、総参謀長」
こんな時では有るが吹き出してしまった。司令長官も笑っている。良い司令長官だ。同盟軍の不幸はもっと早い時期にこの老人を司令長官に持てなかった事だろう。
本当は帝国軍がヤン提督、カールセン提督と戦っているところに参戦したかった。だが帝国軍もその辺りは理解している。かなり厳しい攻撃を二人に対して行ったようだ。ヤン提督は已むを得ず戦闘を打ち切って後退せざるを得なかった。そんな同盟軍を帝国軍は急追しなかった。おそらくはこちらを合流させるためだ。
各個撃破は用兵の常道だ。ヴァレンシュタイン元帥がそれを知らない筈は無い。それなのに敢えてそれをしないのは何故か? 戦うつもりが無いからだろう。今の通信もそれを裏付けている。帝国軍は明らかに時間稼ぎをしようとしている。別働隊のハイネセン攻略を待っているのだ。
「如何なさいますか? 閣下」
「帝国軍を無理矢理戦いに引き摺り込む。そのためにここに来たのだ。それに現状でハイネセンに戻ろうとすれば帝国軍に後ろから攻撃されるだろう、ヴァレンシュタイン元帥の思う壺だ。ここで迷っては意味が無い。」
きっぱりとした口調だった。言葉通りビュコック司令長官に迷いはない。
「では急がなければなりませんな」
「そうだ、前進して帝国軍と交戦する。兵力はこちらの方が多い、恐れる事無く戦えと命じてくれ」
「はっ」
オペレータに指示を出すと艦橋の空気が震えるほどに緊張が走った。一戦して帝国軍を、ヴァレンシュタイン元帥を撃破する、そしてハイネセンに戻り帝国軍の別動隊を叩く。そこに同盟の命運を賭けるのだ。
帝国暦 490年 4月 13日 ジャムシード星域 帝国軍総旗艦ロキ エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
うんざりだな。物事は大体において望む方には進まない。同盟軍が進撃を速めてこっちに向かってきている。なんでこっちに来るかな、普通は首都を守るだろう。俺はラインハルトじゃないんだ。そして皇帝フリードリヒ四世は傀儡じゃない。俺を斃しても帝国軍の敗北には繋がらないし帝国軍は引き揚げない。そんな事は帝国人なら皆知ってるぞ。
既に第一級臨戦態勢は発動した。おかげで総旗艦ロキの艦橋は嫌になるほど興奮している。興奮するな、少し落ち着いてくれ。
「反乱軍との距離、百光秒」
オペレータが押し殺した声で同盟軍が近付いた事を報告した。あー、テンション上がらん。
「全艦隊に命令、
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