第五十八話
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
怯えたような嫌悪するような視線を俺に向ける。
「月人か……。俺は無事だったんだな」
「怪我をしているけど、命に別状はないよ。……しばらくしたら迎えが来るから、横になっていたほうがいい」
俺に言われ、彼は体を動かす。
途端に悲鳴を上げる。
殴られたりした体も痛いだろうが、臀部に受けた寄生根のトゲによる怪我が一番酷かった。ピンポン球くらいの大きさで抉られていたんだから。ちょっとでも動いたら想像できない激痛を感じるだろう。
俺とは違って、漆多は普通の人間。怪我が直ぐに回復することなんてありえない。
「だから無理をするなって。じっとしていたほうがいい。時期に迎えが来るから」
そういってさしだした手を漆多は振り払った。
無言で起き上がる。
相当な激痛を感じたのだろう、漏れそうになる悲鳴を歯を食いしばって耐えているのが俺にも分かる。
安定していた傷口が開いたのだろうか、彼の尻から液体がにじみ出し、足下へと伝い落ちていくのが分かった。
「漆多、無理をするな。お前は重傷なんだぞ」
「う、うるさい。お前の指図なんて受けないよ。俺は自分で帰る」
「何を無茶なことを言っているんだ。ここは町からどんだけ離れていると思ってるんだ。歩いてなんて帰られないぞ」
俺の言葉を無視して、足を引きずり時折倒れそうになりながらも必死で歩いていく。
来るときは気づかなかったけど、少し離れた施設の自転車置き場だった場所があり、そこにはバイクが数台止まっていた。
蛭町とその仲間連中のバイクなんだろう。
漆多はぜえぜえ息を切らせながら一台のバイクにたどり着くと、たどたどしい手つきでポケットに手を突っ込み、キーを取りだした。
フルカウルのレーサーレプリカのバイクだ。
「無茶だ。そんな怪我でバイクなんか乗ったら危ない。しかもレーサーレプリカなんて」
俺は駆け寄る。
同時にセル音が聞こえると彼のバイクのエンジンが点火される。
2ストロークの甲高いサウンドが響き渡る。
「待てよ、漆多。なんで待てないんだ」
「五月蠅い。お前の世話になんか死んでもなるか。助けてくれたのは感謝するけど、それでお前の罪が消える訳じゃないんだぜ」
「そんなつもりじゃない」
「フン、……偽善者め。俺はお前を許さない」
吐き捨てるように呟く。痛みを必死でこらえているのが分かる。
「何を偉そうに言ってるの? このブサイク。誰のおかげで今お前がそんな偉そうな口をきけると思っているの。シュウが助けてくれなかったらお前なんてフルチンのまま殺されていたんでしょう? 命の恩人にそんな偉そうな口をきけるなんてどんな神経をしてるのかしら? 」
「五月蠅い、糞チビ。ガキのくせに偉そうな事言うんじゃねえ。犯すぞ」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ