第五十六話
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ようがないんだ。何かは分からない。……そして俺がマジでやばくなった時、アイツが俺に言ったんだ。手を貸してやるって。あのままだと俺は死ぬしかなかった。嫌な感じがしたんだけど、何もできないまま死ぬくらいなら、姫を死なせてしまうくらいならってアイツの申し出を受けたんだ。其の後は姫も見たとおりさ」
「圧倒的な力でねじ伏せた。そして寄生根に乗っ取られた人間を食べた」
そのキーワードを聞いて、俺は胃の奥の方から何かが逆流してくるような気がして、嘔吐いた。
……でも何も出てこなかった。ゴボっていう変な音が喉からしただけだ。
口の中は血の臭いが残ったままでとても気持ち悪かった。本気で今すぐにうがいをしたかった。
「気持ち悪いことを言わないでくれよ。あれは俺の意志じゃないんだから。勝手に体が動いて、そんで勝手に欲しただけだよ。飢えを癒すため喉の渇きを潤すために、ただ思うままに行動したって感じだったんだから」
俺はあえて他人事のように話した。
自分の意志とは無関係だったとはいえ、肉の味、血の味が忘れられなくなっている。決して嫌悪すべきものではなく、むしろ好ましい時間だったという記憶になってしまっているんだ。ありえないんだけど。
理性と本能のせめぎ合い? いやそれ以上の根源的な問題って感じだ。ただ欲しいから喰う。それだけだったように思う。それが当たり前だという認識のほうが俺の心の中での勢力があったんだ。
もちろん、そんなこと王女に言えないし、それが間違っているってこともわかりきってる。
「……良くは分からないけど、とりあえず、今はお前がまともに戻っているということは分かったわ。それが分かったらもういいわ。さてと……さっさとここから逃げるわよ」
王女はすべての興味を無くしたかのように言う。
「うん……」
「どうかしたの? 」
「いや、こんなに人が死んでいるんだからちょっとまずいんじゃないかなって」
ごくごく当たり前のことを俺は指摘した。
自分がやったことなんだけど、俺は人を殺している。人間じゃないけど、かつては人だったモノだ。そして寄生根に取り込まれて死んだ人間もいる。唾棄すべき糞野郎達だけど、それでも法律上は人間だ。
死体を転がしたままで放置していいんだろうかって思ったんだ。
「お前の言うことは間違っていないけど、この状況をどうやって説明するの? ……突然人間じゃなくなったものに何人もが喰われ、そしてその化け物は俺が倒したんです。証人はこのチビちゃんとフルチンの変態高校生1名ですとでもいうのか? まとめて病院送りでしょ? 運が悪かったら、お前は犯罪者として捕まるわよ。えん罪だけれでその濡れ衣が晴れるのはいつになることやら……」
「たしかにそうなんだけど、こんな状態のまま放置ってのは……」
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