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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
圏内事件 7
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った。触れていられるものならば、例え幽霊であったとしても、自分はそれを愛せるだろう。

「……え?」
「……いや、いい。忘れてくれ」

 マサキはすぐに思いなおして直前の言葉を取り消すと、重ねられていたエミの手から自分の右手を引き抜いて振り返った。星のない夜空を一度仰ぎ、繋がれていない手の温度を自分の身体に染み込ませる。

「……どこかで明日の朝ごはんの材料でも買って帰ろっか。マサキ君は、明日のメニューは何がいい?」
「何でも」

 ぶっきらぼうに答え、主街区に向けて歩き出そうとした――そのところで、マサキはじろじろとこちらを見てくる二つの視線に気がついた。その瞬間、自分が犯した過ちを心の底から後悔する。

「……マサキ君って、ずっとクールっていうか、近寄りがたいって思ってたけど……意外と手が早かったのね……」
「顔はいいしな。ヒースクリフほど有名じゃないけど、ユニークスキルも持ってるし。……ここだけの話、マサキが何人もの女子プレイヤーをとっかえひっかえ引き連れてるっていうウワサが何人かの情報屋に……」
「……なんの話だ」

 威嚇の意味を込め、いつもより一オクターブ低い声でマサキは言った。それを聞いたキリトとアスナが、一様にビクリと身体を震わせた後に引きつり笑いを浮かべる。
 マサキは素早く身を翻すと、主街区に向かって歩き出しながら三人の温かい会話から自分を遠ざけた。体温で温められた空気を夜の冷たい空気と入れ換えつつ、目を細めて呟く。

「……帰るか」
「うん」

 一度引き剥がしたはずのエミの声が耳元で聞こえたことにマサキは驚き、立ち止まった。が、それと同時に左腕をエミに取られていたため、つんのめるような形で彼女に牽引されていく。真っ白になった頭でエミを追いかけながら、マサキは耳に残った囁きを、自分の記憶から無意識に漁っていたのだった。

 いつの間にか、独り言に変わっていた言葉。返事を聞いたのは、一体、いつ以来のことだったろう?
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