アインクラッド 後編
圏内事件 7
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そりと佇む苔むした墓標。そのすぐ脇に、微かな光を放つ何かがあった。
SAOでは一般的な、革でできたブラウンのブーツ。金色の光に覆われ、半透明なそれからは、同じように透き通った脚がすらりと伸びている。ほっそりとした身体には、スピード型のビルドを思わせる控えめな金属鎧。短いブラウンの髪はアップにまとめられていて、たおやかな笑みを零しながらも、その目には強い意思が宿っている。
マサキがそれを人であると認識するまで、数秒の時間を要した。この女性プレイヤーが、現実の存在ではないと知ったのは、更に数秒後のことだ。
――有り得ない。マサキは今日幾度目かの言葉を頭の中で叫んだ。このアインクラッドは、電脳世界に組み上げられた、ただのプログラムでしかない。そこで見聞きする全てはナーヴギアから与えられた電気信号であり、心霊現象やオカルトの類が入り込む余地はない。つまり、今自分が目にしている女性プレイヤーの正体は、プログラム上に発生した何かのバグか、あるいは自らの脳内だけで合成された幻覚かだ。
目を見開いて立ち尽くすマサキに向けて女性プレイヤーはしっとりと微笑むと、何かを差し出そうとするかのように、開いた右手を差し出した。
嘘。幻。バグ。精神異常。目の前の光景を否定する推測が次々に飛び出してきて、マサキの前に壁をなす。その壁が、前に突き出されようとしていたマサキの右手を阻む。……でも、もし。彼女がそのどれでもないのなら。もし、この電子コードで組み上げられた世界のどこかに、消えてしまったプレイヤーたちの思いが残っているというのなら。どうか。どうかもう一度……。
マサキの足が、前に倒れこもうとする上半身を追って半歩だけ前に進む。それと同時に、女性プレイヤーの手を掴もうと開かれていた右手が、その間にある壁に触れる。次の瞬間――女性の姿は忽然と消え失せ、彼女がまとっていた光の一欠けらすら、マサキを嘲笑うかの如く消滅していた。それは、マサキの記憶からある事実を抜き出すには十分だった。マサキは乾いた笑みを口元に刻みながら、視線と右手を女性の存在していた空間に彷徨わせていた。
やがて諦めたように力を抜こうとした寸前、その右手が、不意の温かさに包まれる。
「……ね、マサキ君」
両手でマサキの手を包み込んだエミが、マサキの横に立って言った。思考力の回復していないマサキが言葉を返せずにいると、それを好意的に受け取ったのか、静かに続ける。
「マサキ君はどう? マサキ君が誰かと結婚した後で、その相手の新しい一面に気付いたら……マサキ君は、どう思う?」
マサキはいまだ回転数の戻っていない頭で、質問の意味を考えようとした。そういえば、先ほどアスナがそんな問いをキリトにしていたような気がする。
「……それは、触れるのか?」
マサキは短く言
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