アインクラッド 後編
圏内事件 7
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た操り人形のような不気味さで、グリムロックは喉の奥を鳴らして笑った。膝立ちのままメニューウインドウを開き、殆ど手元を見ずに一つの革袋をストレージから取り出す。グリムロックはそれを無造作に地面に投げると、何の執着も示さない乾いた声で吐き捨てた。
「これは、あの指輪を処分した金の半分だ。金貨一枚だって減っちゃいない」
「え…………?」
グリムロックは丸眼鏡の底に沈む濁った瞳を上向けると、困惑した様子のヨルコとマサキたちに順番に目をやって、呻くような声を激しくわななかせ続きを紡ぐ。
「金のためではない。私は……私は、どうしても彼女を殺さねばならなかった。彼女がまだ私の妻でいるあいだに」
――そうして始まったグリムロックの独白は、実におぞましいものだった。
グリセルダとグリムロックは、現実世界でも夫婦だった。夫であるグリムロックの言葉に、グリセルダは何一つ異議を唱えなかったという。そして、二人はSAOに囚われ――グリセルダは変わった。グリムロックがデスゲームに怯える中、強い意思を持ち、類稀なる統率力でギルドを結成し、メンバーを鍛え始めた。それを見たグリムロックは、自分の愛した従順な妻はもう二度と戻ってこないのだと自覚した。……だから、殺した。
「……私の畏れが、君たちに理解できるかな? もし現実世界に戻った時……グリセルダ……ユウコに離婚を切り出されでもしたら……そんな屈辱に、私は耐えることができない。ならば……ならばいっそ、まだ私が彼女の夫であるあいだに。そして合法的殺人が可能な、この世界にいるあいだに。ユウコを、永遠の思い出のなかに封じてしまいたいと願った私を……誰が責められるだろう……?」
「屈辱……屈辱だと? 奥さんが、言うことを聞かなくなったから……そんな理由で、あんたは殺したのか? SAOからの解放を願って自分を、そして仲間を鍛えて……いつか攻略組の一員にもなれただろう人を、あんたは……そんな理由で…………」
首を左右に振りながら、キリトがひび割れた声で発した。その右手がピクリと跳ねるのを左手で押さえつけている。
そのキリトに向かって、グリムロックは顔を持ち上げると、力なく笑いかけた。
「そんな理由? 違うな、十分すぎる理由だ。君にもいつか解る、探偵君。愛情を手に入れ、それが失われようとしたときにね」
「……間違ってるのは、あなたです」
それまで沈黙を守っていたエミが、ここにきて突如反駁した。強い芯が通ったソプラノにマサキが思わず視線を投げる。可憐な造りの顔に浮かぶ、月明かりの下で一輪だけ咲いている蘭のような凛とした表情からは、その心境までは推察できない。しかしその瞳に浮かんだ真剣な色の光は、彼女の抱いている気持ちの強さを否応なしに感じさせるものだった。
「誰かを好きになる……誰
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