アインクラッド 後編
圏内事件 7
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掘り出したのは、マスタークラスの細工師だけが作ることのできる、《耐久値無限》の箱だった。小さいものしか作れないため、収納できるのは小さなアイテムがアクセサリを複数個ほどだが、この小箱に入れられたアイテムは、フィールドに放置されようとも耐久値が一切減少しなくなる。
ヨルコはそれを大切そうに胸に抱くと、瞳に浮かんだ強靭な光を、身体ごとグリムロックに向けた。
「ドロップしたあの指輪をどうするのか決める会議で、私とカインズ、それにシュミットが、指輪の売却に反対したわ。そしてその席上で、カインズはリーダーが装備すべきだって主張した。『黄金林檎で一番強い剣士はリーダーだ。だからリーダーが装備すればいい』って」
徐々に苛烈さが増しつつある声を発しつつ、ヨルコはそっと小箱のふたを開け、中に入っていた二つの指輪を取り出した。それをグリムロックに突き出し、一段と語気を強めて言い放つ。
「……それに対して、リーダーは笑いながらこう言った。『SAOでは、指輪アイテムは片手に一つずつしか装備できない。右手のギルドリーダーの印章、そして……左手の結婚指輪は使えないから、私には使えない』……分かったでしょう? あの人が、この二つのうちどちらかを外してこっそり指輪の効果を試すなんてこと、あるはずなかったの。ここにある二つの指輪が、リーダーの遺品にあったギルドの印章と――彼女がいつも左手の薬指に嵌めてた、あなたとの結婚指輪よ、グリムロック! あの人はずっと、最期まで……私たちギルドと、夫であるあなたに、潔白を貫いてた! 殺された瞬間まで、この指輪を外さなかった! この二つの指輪が今ここにあることが、揺るぎないその証よ! 違う!? 違うというなら、反論してみせなさいよ!!」
涙交じりの絶叫が、びりびりと仮想の空気を振動させて轟いた。
しばらくの間、誰も口を開くことができなかった。大粒の涙をはらはらと零すヨルコの視線から逃れるように、グリムロックは帽子のつばをきゅっと握って離さない。やがて帽子を握る手が微かに震え、薄い唇が強く結ばれる。その端をしばし痙攣させた後に、力が抜けたように、その全身が弛緩した。
「その指輪……。確か葬式の日、君は私に訊いたね、ヨルコ。グリセルダの結婚指輪を持っていたいか、と。そして私は、剣と同じく消えるに任せてくれと答えた。あの時……欲しいとさえ言っていれば……」
絞り出すように漏らした直後、グリムロックの長身が膝からくずおれた。ヨルコは金の指輪を丁寧に再び箱へしまいこみ、それを胸に抱いて涙の混じったかすれ声で囁く。
「……なんで……なんでなの、グリムロック。なんでリーダーを……奥さんを殺してまで、指輪を奪ってお金にする必要があったの」
「…………金? 金だって?」
まるで糸が切れ
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