アインクラッド 後編
圏内事件 7
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。つばの広い帽子をかぶっていて、人相までは分からないが、眼鏡らしきアクセサリが時折月明かりを反射してちらちらと光っている。
男はマサキとキリトから三メートルほど離れた位置で立ち止まり、その場の全員と、最後に《黄金林檎》リーダーの墓標である苔むした十字架に目をやって言葉を発した。
「やあ……久しぶりだね、皆」
マサキが予想していたより、少しだけ低い声だった。それでいて、落ち着いている。直前にPK未遂の現場を目撃し、しかも現在進行形で剣を突きつけられているとは思えない、まるで親しい友人と、家でお茶に興じているかのような。その声と、銀縁の丸眼鏡の下に見えた柔和そうな顔に、マサキは自分でも知らず知らずのうちに眼を細めていた。
「グリムロック……さん。あなたは……あなたは、ほんとうに……」
――グリセルダを殺し、指輪を奪ったのか。この三人を殺し、事件の隠蔽を図ったのか。二つの意味を含んでいただろう質問は、どちらか一つに分岐することなく途切れてしまう。だが、そこまで言えば、残りは誰だって分かるだろう。
グリムロックはすぐには答えず、エミとアスナがそれぞれ得物を鞘にしまってマサキとキリトの隣に移動したのを見届けてから、あくまで穏やかな表情を崩すことなく口を開いた。
「……誤解だ。私はただ、事の顛末を見届ける責任があろうと思ってこの場所に向かっていただけだよ。そこの怖いお姉さん方の脅迫に素直に従ったのも、誤解を正したかったからだ」
「嘘だわ!」
グリムロックの申し開きを切り裂くように、アスナの声が鋭く鞘走った。その後を、いつもの弾けるような笑顔ではなく、真剣な表情を浮かべたエミが続ける。
「……あなた、ブッシュの中でハイディングしてましたよね? わたしたちが気付かなかったら、そのまま動く気すらなかったはずです」
「仕方がないでしょう、私はしがない鍛冶屋だよ。この通り丸腰なのに、あの恐ろしいオレンジの前に飛び出していけなかったからと言って責められねばならないのかな?」
エミの追及にも涼しい顔で言い返すグリムロック。こちらの追及を絶対にかわせると言わんばかりの余裕綽々といった雰囲気が、マサキの後頭部周辺でちりっと微かな警告を発する。
一体、何を企んでいる……?
隣のキリトが、今度は《指輪事件》について言及する。それを聞きながら、マサキは自身の脳を高速回転させてもう一度自分たちの推理を洗い直した。
グリセルダが死亡した時、ストレージにあった指輪は婚姻関係にあったグリムロックの足元にドロップした。その後グリムロックはその金の半額を報酬としてシュミットに渡した。そんな大金をポンと出すには本当に指輪を売却する以外ないだろうから、その金の差出人は指輪を手に入れたグリムロックしか考えられず、同時にその時点で
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