第十八話 陥穽
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るのだろう。
ブラウンシュバイク公はこちらの意図に気付いているようだ。後退を始めて一週間以上になるがこちらを挑発する様なそぶりは欠片も見せない。帝国軍は撤退に専念している。おかげで同盟軍本隊も進撃の速度を上げた。第二艦隊との距離も危険なほどには離れていない。その点に関してだけはホッとしている。
両軍の距離は帝国軍が撤退を留まればほぼ一日程度で追い付く距離だ。だが帝国軍はもう間もなくイゼルローン回廊の入り口に到着する、本隊は既に回廊内に入ったかもしれない。つまり同盟軍が帝国軍を補足する事は出来ない、当然だが挟撃も不可能だ、回廊内に押し込むので精一杯だろう。
ドーソン司令長官は不機嫌そうな表情で指揮官席に座っている。そして時折小刻みに身体を揺らす様な仕草をする。帝国軍を挟撃できない事が不満なのだろう。何度か大声で“帝国軍もだらしがない、逃げるだけか”と吐き捨てている。或いはそうやって自分を大きく見せようとしているのかもしれない。周囲はそんな敵以上に厄介な司令長官に出来るだけ関わらないようにしている……。
宇宙暦796年 1月19日 同盟軍宇宙艦隊総旗艦ラクシュミ ドーソン
「帝国軍もだらしがない、逃げるだけではないか」
詰らん、誰も俺の言葉に反応しない。ただ黙って仕事をしている。追撃中なのだ、大した仕事など無い筈だ。それなのに誰も反応しない。だれも俺を宇宙艦隊司令長官とは思っていないのだろう。
思わず“フン”と鼻を鳴らしてしまった。一事が万事だ、皆が俺の事をどう思っているか、これほどはっきりと分かる事は無い。ドーソンは宇宙艦隊司令長官としては頼りない、適任に有らず、そう思っているのだ。そして直ぐ更迭されるだろうと見ている。だから誰も俺を親身に補佐しようとはしない。ただ黙って見ている……。
グリーンヒルもヤンも口を開けば慎重にとしか言わない。やたらと敵のブラウンシュバイク公を恐れ、戦うのを避けようとしている。戦争なのだ、勝たなければならない。そして今回は勝てる戦いのはずだ。味方は四万六千隻、帝国軍は二万隻、倍以上の戦力差が有る。正面から押し切って勝てるのだ、これで勝てなければおかしいだろう。それなのに戦いを避けようとしている。
分かっている、二人は俺に功績を立てさせないようにと考えているのだ。グリーンヒルもヤンもシトレ統合作戦本部長と親しい。本部長が宇宙艦隊司令長官になりたがっている事は俺も知っている。二人はシトレ本部長の意を受けてここにいるのだろう。
倍の兵力を持ちながら敵に対して何も出来なかった。そうなれば当然俺に対して非難が起きるに違いない。どれほど敵が危険だと言っても、どれほど参謀達がそれを勧めたと言っても軍人の仕事は敵に勝つことであり決断するのは指揮官である俺だ。俺の責任になるのだ
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