八話:雌伏の時
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。朝ごはんできたよー」
「ああ、今行くよ」
はやての呼びかけでもう朝食の時間かとようやく気づく。
どうやら一時間以上考え込んでいたようだ。
凝り固まった背筋を伸ばして椅子から立ち上がる。
ふと、鏡を見てみると酷く憔悴した男がこちらを覗き込んでいた。
それが自分だと気づくのに一時の時間を要してため息をつく。
「僕は弱いな……理想が少しでも揺らげば仮面が剥がれ落ちる」
こんな顔は家族には見せられないと漠然と考え洗面所に顔を洗いに出る。
顔を洗った後に鏡に映ったのはどこにでもいる父親の顔だった。
「今日もすずかちゃんと会えたらええなぁ」
「すずかちゃん? 誰だい、その子は?」
「あ、おとんには言ってなかったっけ。昨日図書館であった優しいお嬢様みたいな子や」
「そっか。友達になれるといいね」
朝ごはんの和食を食べながらはやてと談笑する。
昨日の残り物に簡単なおかずそして味噌汁。
それだけでも白米が進むのはやはりはやての料理の腕のおかげだろう。
「やっぱりはやての飯はギガウマだな」
「それは嬉しいけどヴィータは後で寝癖直そうな。凄いことなっとるよ」
「分かった。はやてが梳いてくれるよな」
「もう、甘えん坊さんやなぁ」
「別に良いだろ」
プイと横を向いて唇を尖らせるヴィータにその場にいる者全員が微笑まし気な笑みを向ける。
騎士達はこの日常を何としてでも守らなければならないと改めて決意を固める。
そしてその横で切嗣は刻々と近づいてくる運命の日までのカウントダウンを続ける。
「ごちそうさま。ちょっと外で一服してくるよ」
「またかいな。最近おとんよーけタバコ吸いよるよな? ダメやでタバコは体に悪いんやから」
「大丈夫だよ。加減は分かっているさ」
「お父さん、本当に分かっているんですか?」
「……みんな信用がないね」
普段は優しいシャマルにまで言われて少し肩を落としながらベランダに出る。
横目で家族の様子を確認するが別段こちらを気にする様子はない。
安物のライターを灯し慣れた手つきで紫煙を吐き出す。
タバコは良い。煙が体を侵すように吸う度に、以前の冷酷だった頃の自分がぬるま湯につかった自分を侵していく。
「状況が不味いなら僕自身が動かないとな……」
小声で呟かれた言葉は冷たい北風に流されて家族の耳には届かない。
右腕の裾を軽くまくり上げてそこにある十字架のブレスレットにチラリと視線を向ける。
地球に居た頃から愛用していた武器を完璧に再現するストレージデバイス。
切嗣の主要武装。ある科学者が創り出した魔導士殺しの象徴。
その銃が解き放たれるときは―――近い。
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