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逆さの砂時計
正義なんて存在しない
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「人間は信じたいものを信じて生きれば良いんだ。でも、それを自分以外の人に強要するのは間違いだと思う。信仰は、個々が生きる為の支えと導きの一つであれば良いんだよ。まあ……ちょっとばかり神聖を過信気味だった我々の代理人様は、その辺りで大失敗したんだけど」

 アリア信仰の教典だって、最初から最後までしっかり読み通してみれば、素人にも見抜ける矛盾で満ちている。
 元々あった不調和なのか、時代とやらが生んだ歪みなのかは知らないが。

 要するに。
 最初からにせよ途中からにせよ、どこかで曲がる程度のものなんだよね。
 でも、歪んだものがすべて誤りか? と言えば、案外そうでもない。
 歪んだ教えに心を救われた人間だって、たくさんいる。

「君達がパトラ神を唯一絶対と崇めるように、私達は女神アリアを信じる。それで良いじゃない。便宜(べんぎ)上異端や敵対組織と表現するのは仕方ないけど、思いと願いを共有しなければ、手を取らなければ殺すべき敵って考え方は、とても寂しい。終着点が違っていても良いよ。未来への選択と結果が後悔を招くとしても。それらは、すべての生命に与えられた自由だ。無理矢理手を引っ張る必要はないし、救えなかったと無力を嘆かなくてもいい。行く先を妨害し合っても虚しいだけだよ?」

 純粋な救済を目的としてる場合の話だけど。
 お金と権力と暴力が何より大好きな、エセ宗教団体もあるから困るよね。
 というか、宗教に限った話じゃなくて。
 一定以上の集団になると、自分が審判者(正義)って人間、必ず出てくるよね。
 あれって、なんなんだろうねえ。承認欲求の類いなのかな?

「私がアリア信仰を選んだ理由はね。数ある宗教団体の中で、唯一、教義に『寛容(かんよう)』を見出だしたからだよ。ほらね。たった一言だ。この一言こそが、人間に最も不足している要素だと思わない?」

 敵は受け入れるな、滅ぼせ、抹消しろ。
 ああ本当に、なんてバカバカしい。
 受け入れがたいのは、その狭量(きょうりょう)

 あらゆる生物は、独自の都合で生きている。
 神様だって、きっとそう。
 完全無欠で絶対的に正しいものなんか、この世界には存在しない。
 だからこそ。

「折り合いとか中間を、もっと大事にしようよ。せっかく語り合える知能を持って生まれたんだし。パトラ神の天子様と女神アリアらしき人物がどんな対話をしたのかは分からないけど、彼女が本当に本物のアリア様なら、多分洗脳はしてないと思う。偏った物の見方じゃなく、より広い視野を持とうとしたんじゃないかな。結果君達から見れば裏切りでも、もっと多くの人間を救おうとしているとは思えない?」

 推測でしかないけど。

「……はっ! なんだお前ら。偉そうに高僧服なんか着て、大層な不信心者
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