正義なんて存在しない
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拾ったのを確認してから、青年の腕をひねって背中に回し、体の正面を壁に押し付けて固定する。
うん。だから。
この程度で痛いとか言われてもね。
「くそ! 邪神の使い魔共め! 我が神パトラ様の天罰を受けて滅びろ!」
ああ、なんだ。
小物感丸出しじゃなくて、正真正銘の小物なのか。
この様子だと、単独犯かな?
こんな、見るからにぼろぼろになってまで……可哀想に。
「信じる神教の重役が、アリア信仰に改宗しようとしてるんだね? それがどうしても気に入らなくて、私達を襲おうとした?」
「改宗だと!? ふざけるなッ! 人類の未来を憂い、救おうとなさっていたお優しい天子様を洗脳しやがって! 破滅の使徒め。そんなに滅びたいならお前らだけで勝手に死ねよ!! 世界を巻き込むな!!」
世界救済、か。
神と付く者の教えって、多少の差異はあっても行き着く先はそこだよね。
近い将来、未曾有の大災害が起こるから、私を信じなさい。
信じた者だけが、浄化された世界で清く正しく新しい未来を築くのです。
転じて、言うことを聞かない人間は邪悪。というより、単に邪魔。
「ねえ、君。パトラ神の教義を一言で教えてくれないかな」
「はああ!? なんでお前らなんぞにいぃってててっ!! 分かった、話す! 話すから!!」
軽く力を入れただけなのに。
「至高神パトラ様は、我々に試練を与えたもうた。曰く、生きるとは忘却の罪を咎めるものであり、我らはパトラ様の御手により存在を赦された事実を忘れている罪の子。現世においてパトラ様のご加護を、かの御方に誠心誠意仕える役目を思い出した者は、死後パトラ様がおわす浄土世界へ招かれる。約束の日までに覚醒した魂のみが、パトラ様の下で永遠の安寧を得るのだ」
やっぱり、そんな感じかあ。
で、夢見る少女の瞳で、うっとりと語ってもらってなんだけど。
「全然、一言じゃないね?」
「一言で伝えられるわけないだろ! 神の教えは、紙一枚に収まるような、そんな浅いもんじゃねーんだよ!」
「言葉の浅深軽重や真偽は結局、受け取った側の人間が自分の都合と願望と偏見で解釈して定めるものだよ。放った側がどんな思いを込めていてもね」
「なっ!?」
包丁を持ったタグラハン大司教が数歩下がって、青年から刃を遠ざける。
暴れられても面倒だし、まだ解放はしないよ。
「パトラ神の教義を教えてくれたお礼に、女神アリアの教義を教えようか。私はね。実のところ、どこの誰がどんな宗教に入信してもしなくても良いと思ってるんだ」
青年の動きが止まる。
ああ、そうしてくれると助かるな。
年を取るともう、足とか腰とか肩とか、痛くて痛くて。
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