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逆さの砂時計
正義なんて存在しない
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」。
 正門を過ぎるまでに、挨拶を何十回交わしたのかな。
 参拝者の皆さんは今日も、おそらく昨日も、その前もずっと、この神殿で女神アリアに祈りを捧げている。
 十歳にも満たないだろう子供が、母親に手を引かれて嬉しそうにしている様子などは、実に微笑ましい光景だ。

「ねえ、タグラハン大司教。今日みたいなお天気の日には、お弁当を片手に持って高原でお散歩とか良いと思わない? 暖かい陽射しと強すぎない風が心地好いからって、昼食後に寝転んで、そのままお昼寝しちゃったり」
「高原? この辺りだと、アレンドラ高原とか?」
「そうそう。今の時期なら、いろんな小花が咲いていると思うんだ」
「小花を眺めながら昼食かあ……うん。悪くないね」

 気分良く正門を出ると、目の前には半円状のちょっとした広場がある。
 敷地全体に石畳を敷き詰め、所々に女神像や動物を象った石像を配置。
 広場の中心には、石造りの時計台をモニュメントとして設置し。
 その足元の花壇に、色とりどりの多種多様な花を植えて。
 更にその周りを水路で囲んだ、都民達の憩いの場所だ。

 広場と広場を囲む居住区との境でずらりと並ぶ、緑豊かな木々の下。
 金属製のベンチに腰掛けて語り合う人々は皆笑顔で、とっても楽しそう。

「なら、お弁当の中身はサンドイッチが良いな。半生スクランブルエッグとキュウリの相反した食感がたまらないよね」
「ええ? すぐに食べるのならともかく、外出用で半生はいただけないよ。傷みやすいし、衛生上よろしくない。じっくりと火を通して辛味料と混ぜたゆで卵がレタスのしゃきしゃきした食感と奏でる調和こそ、サンドイッチの醍醐味(だいごみ)じゃない?」
「じっくり火を通したら黄身の食感が悪くなるじゃないか。サンドイッチは手軽さと食感が命なのに」
「手軽さと食感が大切なのは分かるけど、やっぱり食べ物は安全に美味しく頂きたいじゃない。お腹を壊したら元も子もないよ」
「美味しく食する為には必要な手加減だよ、半生という調理方法は。なに、早めに食べてしまえば問題ないさ」
「早めって、散歩の途中か目的地に着いてすぐ休憩も挟まずに食べようってこと? 疲れた状態でお弁当を食べるのは苦しいなあ。ゆっくりのんびり、空気ごと味わおうよ」
「そこまで急いで食べなきゃ傷むってものでもないだろうに。安全ばかりを優先してたら、何を食べても美味しくなくなるよ?」

 昔と違って、現代の食物品質は格段に向上してるんだから。
 気にするだけ勿体ないよと呆れる友人。

「むう。でもね、タグラハン大司教」
「ちょっと待った。この話は後にしよう、コルダ大司教」

 正門の外側を右手沿いに歩いて角を曲がった先で。
 神殿を守る外壁に背中を預けてしゃがむ青年を見つけた。
 見るからに薄
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