第一章
[2]次話
チャパン
キルギスは寒い、その標高の高さ故に。
かつてこの国はソ連の中にあった、だが今は独立して一つの国だ。
「この国は長い歴史があるんだぞ」
「知ってるよ」
ビタリ=ボイキンは家の中で祖父のオルズベックにこう返した。
「独立して間もないんじゃなくて」
「そう、長い歴史があってな」
「それは歌にもなってるんだね」
「そうなんだ」
オルズベックもこう言うのだった。
「マナスにある通りな」
「そして祖父ちゃんはそのマナスを語る」
「マナスチだ」
それだというのだ。
「そして御前もな」
「何時かはだね」
「そのマナスチになるんだ」
「わかってるよ、ただね」
ビタリはその白い肌に青い目と茶色の髪のまだあどけなさが残る顔で白い髪と髭を長く伸ばした祖父に言った。
「何で祖父ちゃんいつも白い服なんだよ」
「それは尊い色だからだよ」
「尊い?」
「そうさ、わし等の間ではな」
「キルギス人の間では」
「昔は赤ばかりだった」
ソ連時代はというのだ。
「しかしわし等は本当はな」
「白なんだ」
「そうだ」
まさにというのだ。
「わし等の色はそれだ」
「白なんだね」
「だからわしもな」
「いつも白い服なんだ」
「そしてだ」
祖父は目を細めさせて自分と同じ目の色の孫に語った。まだ十五の彼に・
「わしのこの髪と髭もな」
「白でだね」
「誇りだ、わしのな」
「そうなんだね」
「白はわし等の色だ」
キリギス人のというのだ。
「ミルクの色がな」
「じゃあそのマナスも」
「ああ、白のある服でな」
「語るんだね」
「笛を奏でたりしてな」
「それどんな服なのかな」
「チャパンだ」
祖父は孫にその服の名前も教えた。
「帽子も被るがな」
「帽子もなんだ」
「アカ=カルパクというんだ」
その帽子の名前はというのだ。
「それに白いブーツも履いてな」
「マナスを語るんだ」
「いいか、マナスはな」
そのマナスのことはだ、オルズベックはビタリに強い声で言った。
「長いぞ」
「そんなに長いんだ」
「何でも世界一長い詩らしい」
「そうだったんだ」
「御前はそれを覚えてな」
そしてというのだ。
「歌わないといけないんだ」
「それお父さんもだよね」
「ああ、あいつにも覚えさせた」
ビタリの父、オルズベックの息子にもというのだ。
「ちゃんとな」
「そうなんだ」
「だからだ」
それでというのだ。
「御前もだ、いいな」
「覚えてだね」
「詠え、いいな」
「そうするんだね」
「歌うんじゃないな」
ここでだ、オルズベックはこうも言ったのだった。
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