暁 〜小説投稿サイト〜
赤い目
5部分:第五章
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
それであった。白いものでありそれ自体には何の変哲もない。そこだけ見れば只の人間であった。
 だが顔が違っていた。口は耳まで裂け、そこからシュウシュウと白い蒸気を出す涎を垂らしていた。舌は赤黒く、そして蛇のそれに似ていた。目は真っ赤で異様に釣り上がっている。そして肌はまるで絵の具を塗ったかの様に青いものであった。
「フン、貴様か」
 老人はその異形の者を見据えて言った。
「この店で人の肉を出しておったのは」
「そうだ」
 怪物はそれを認めた。
「辺りのホームレスや不良共を攫ってな。この街の者に食わせておったのだ」
「やはりな」
「中には子を孕んでいる女もおったな。不良の中にな」
「じゃああれは」
 高志はその言葉にハッとした。
「女の人のお腹から」
「それ以外に何があるのじゃ?」
 その奇怪な涎を垂らしながら答える。
「子は女の腹から出て来るもの。それを使って何が悪い」
「化け物」
「よせ、もうわかりきったことじゃ」
 老人はそう言って高志を制した。
「そうやって人の肉を調達したのは何の為じゃ?」
「知りたいか」
「無論、その為に来た」
 老人は答えた。
「この街を我が物にする為か?」
「その通りだ」
 まるで獣が無理に人の言葉を話しているかの様な声であった。それを聞いただけで高志は心臓を握り締められているかの様な恐怖感を覚えた。
「この街をわしの街にするつもりなのじゃ」
「人の肉を喰わせその心を魔物にしてか」
「その通り」
 怪物は答えた。
「上手くいっておると思っておったが。まさか気付かれるとはな」
「気付かれぬ筈がなかろう」
 老人は落ち着いた声で言葉を返した。
「赤い目の者があれだけいれば。嫌でもわかるわ」
「そう言う貴様は只の人間ではないな」
「只の?買い被ってもらっては困るのう」
 老人はそれを聞いて飄々と笑った。
「わしは只の爺じゃよ」
「嘘をつけ」
「嘘ではない。少なくとも御前さんの様に魔界から出て来てはおらぬさ」
 どうやらこの怪物は元々人界にいた者ではないらしい。老人の見立てによると魔界の住人であるらしいのだ。
「只普通の人より御前さん達のことは知っているだけじゃ」
「わしを知っておるというのか」
「左様。何に弱いのかもな」
「ではここから逃げてみるがいい。逃げられなかったならば」
 そう言いながら右手をゆらりと動かした。すると冷凍庫から氷漬けになった胎児が浮かんで来た。そしてそれをその右手で受け取った。
 それを口に運ぶ。氷のまま喰らう。バリバリと氷の砕ける音が聞こえてきた。
「この赤子の様になる。覚悟せよ」
「逃げるつもりはないさ」
 だが老人はそれを否定した。
「何!?」
「わし等がここに来たのはな、ただ見物に来たわけではないのじゃ」
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ