巻の十七 古都その三
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一行はその山、険しいそれは何なく越えた。地元の者達が難儀だと言う山も一行にとっては何でもないものだった。
そしてその山を越えてさらに東に進んでだ、奈良に来た。奈良は都や大坂、堺程ではないが中々賑やかだった。
神社や寺も多い、そして鹿も。清海は自分達のところに来る鹿達を見て言った。
「春日の鹿もな」
「変わりませぬな」
伊佐もその鹿を観つつ兄に応えた。
「昔から」
「うむ、人懐っこいのう」
「ですな、しかし兄上は」
「わしがどうしたのじゃ?」
「前から思っていましたが」
鹿が周りにこれでもかと集まっている自身の兄を見ての言葉だ。
「生きものに好かれますな」
「うむ、昔からじゃな」
「鹿だけでなく犬や猫にも」
見れば他の者よりも鹿に寄られていて清海自身にこにことして彼等を撫でている。伊佐はその兄を見て言ったのだ。
「好かれまするな」
「何かとな」
「心根のよい者は生きものに好かれるといいますが」
「ではわしは心根がよいのか」
「いつもそう思っています」
「わしは破戒僧じゃがな」
その大きな口を開いて笑ってだ、清海は弟に返した。
「それでもか」
「はい、それでもです」
「わしは心根はよいか」
「では弱き者をいたぶったりしたことはありますか」
「馬鹿を言え、そんなことはない」
一度もだ、清海はこのことははっきりと言い切った。
「わしはあくまでじゃ」
「そのお力はですな」
「悪い奴、弱い者をいじめる奴を懲らしめる為のものであってじゃ」
「今はさらにですね」
「殿をお守りする為にある」
そうだというのだ、自分自身も。
「その様なことはせぬ」
「意地悪でもありませぬし」
「悪戯は好きじゃったがな」
子供の頃はだ。
「しかしな」
「はい、非常に心根はいい方なので」
「生きもの達に好かれておるか」
「そうです」
「成程な、そういえば殿もかなりじゃな」
見れば幸村達の周りにもだ、鹿は多い。
「殿は鹿にも好かれるか」
「流石は殿ですな」
「御主も凄いのう」
海野は猿飛にも言った、見れば猿飛は清海や幸村にも負けない位多くの鹿達に囲まれている。その猿飛を見ての言葉だ。
「鹿に好かれておるな」
「わしも昔からなのじゃ」
「生きものに好かれておるか」
「そうなのじゃ」
「そういえば御主生きものを使うことも得意じゃったな」
「特に猿をな」
この生きものがというのだ。
「使うのが得意じゃ」
「名前通りじゃな」
「よく言われる、爺様に教えてもらった術じゃ」
「祖父殿にか」
「そうじゃ、わしの家のことは前に話したな」
「伊予の方でほぼ一子相伝で忍術を伝えておったな」
「その爺様から授かった術の一つじゃ」
他の術と同じく、というのだ。
「木の術
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