暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
災いの種
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心に迷いや曇りは無い。
 崇める神の教えに従順で。
 見方次第じゃ、末は素晴らしい殉教者(じゅんきょうしゃ)になるだろう。
 けどね。

「先の大戦の生き残りがアリア信徒の中にどれだけ居るか。ご存知かな?」

 室内の空気が瞬時に凍り付いた。

「そ、それは……」

 明らかにうろたえるテネシー大司教に、ちょっと安心したよ。
 だから? なんて言われてしまったら、先が続かないからね。

「彼らは犠牲者だ。年若いなんてものじゃない。まさに幼児の時分に家族や友を喪った。生き残ることすら許されずに摘み取られた幼い命も、星の数。その戦いが何故始まり、どうして彼らが搾取(さくしゅ)され続けたのか。貴方くらいの年齢なら、耳に入ってるんじゃないのかな?」

 年老いた者ほど、暗闇でもはっきりと青褪めていく。
 現実問題、この話を避けて議論を続けるのは無理があるんだよ。
 実際、大戦の残り火はまだ、世界各地で(くすぶ)っている。

「いや、しかし、ですが……っ」

 老人達が言葉を失う中でも(ねば)るのは、彼が当事者じゃなかったからだ。
 話は聴いていても、決して当事者ではなかった。

 当事者じゃないから、背負った重さを実感できないのは当然で。
 実感が伴わないからこそ、無責任に言葉を紡げるのだよ。人間は。

「貴方は、傷付いた彼らに向けて石を投げられるかい? 血を流しながらも立ち直ろうとしている者の背中を斬りつけて、耐えなさいと微笑むことが、主神アリア様の教えだったかな?」
「……っ」

 ぐっと喉を詰まらせて、力なく席に着く貴方が悪いわけじゃない。
 教義を広めることには賛同するけど、情勢と方法は見極めようねって話。
 我々の女神アリアは、世界を構成する全生命を愛して護られた方。
 争いを肥大化させるやり方を選んだらダメでしょ。

 ね、教皇猊下?

「私はファーレン大司教の意見に賛同致します。調査は続行するにしても、我々は女神アリアの神託を待ち、祈りにのみ心を砕くべきです」

 私が着席し直した直後、ああでもないこうでもないとざわめきが起きて、音量を落とした口論が加速する。

 一つの事象から無限に生み出される意見を集約するのは大変だね。
 そのどれもが正しいのだけど、角度を変えればそのすべてが過ちになる。
 世界平和の定義ですら、彼らに問えば千差万別の回答を得られるだろう。
 同じ神に仕えている我々でさえ、この有り様なのだから。
 異教徒との確執なんかなおさら、そう簡単には埋まらない。
 衝突は必然。

「……なんだけどねえ……」

 本気で改宗したがっている元敵対組織の上役が、複数人いる事実を。
 さて、どう受け止めれば良いのやら。
 何を見て、
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