災いの種
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
心に迷いや曇りは無い。
崇める神の教えに従順で。
見方次第じゃ、末は素晴らしい殉教者になるだろう。
けどね。
「先の大戦の生き残りがアリア信徒の中にどれだけ居るか。ご存知かな?」
室内の空気が瞬時に凍り付いた。
「そ、それは……」
明らかにうろたえるテネシー大司教に、ちょっと安心したよ。
だから? なんて言われてしまったら、先が続かないからね。
「彼らは犠牲者だ。年若いなんてものじゃない。まさに幼児の時分に家族や友を喪った。生き残ることすら許されずに摘み取られた幼い命も、星の数。その戦いが何故始まり、どうして彼らが搾取され続けたのか。貴方くらいの年齢なら、耳に入ってるんじゃないのかな?」
年老いた者ほど、暗闇でもはっきりと青褪めていく。
現実問題、この話を避けて議論を続けるのは無理があるんだよ。
実際、大戦の残り火はまだ、世界各地で燻っている。
「いや、しかし、ですが……っ」
老人達が言葉を失う中でも粘るのは、彼が当事者じゃなかったからだ。
話は聴いていても、決して当事者ではなかった。
当事者じゃないから、背負った重さを実感できないのは当然で。
実感が伴わないからこそ、無責任に言葉を紡げるのだよ。人間は。
「貴方は、傷付いた彼らに向けて石を投げられるかい? 血を流しながらも立ち直ろうとしている者の背中を斬りつけて、耐えなさいと微笑むことが、主神アリア様の教えだったかな?」
「……っ」
ぐっと喉を詰まらせて、力なく席に着く貴方が悪いわけじゃない。
教義を広めることには賛同するけど、情勢と方法は見極めようねって話。
我々の女神アリアは、世界を構成する全生命を愛して護られた方。
争いを肥大化させるやり方を選んだらダメでしょ。
ね、教皇猊下?
「私はファーレン大司教の意見に賛同致します。調査は続行するにしても、我々は女神アリアの神託を待ち、祈りにのみ心を砕くべきです」
私が着席し直した直後、ああでもないこうでもないとざわめきが起きて、音量を落とした口論が加速する。
一つの事象から無限に生み出される意見を集約するのは大変だね。
そのどれもが正しいのだけど、角度を変えればそのすべてが過ちになる。
世界平和の定義ですら、彼らに問えば千差万別の回答を得られるだろう。
同じ神に仕えている我々でさえ、この有り様なのだから。
異教徒との確執なんかなおさら、そう簡単には埋まらない。
衝突は必然。
「……なんだけどねえ……」
本気で改宗したがっている元敵対組織の上役が、複数人いる事実を。
さて、どう受け止めれば良いのやら。
何を見て、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ