原作開始前
EP.2 ワタルの魔法
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、さらに応用力の高い技に昇華できるのだ。
「むー」
「ハハハ、むくれるなって。“換装”はお前とは相性が良いと思うし、教えてやるさ」
魔力を空気中に軽く魔力を炸裂させて実演して見せたワタルの説明にエルザはむくれて落ち込んでしまう。が、換装は自分でも使える、さらに相性が良い、と知ると目を輝かせてワタルに詰め寄った。
「本当か!? なら教えてくれ!」
「ああ、分かった分かった。でも今日は遅いし、また明日、な」
「む、分かった。約束だぞ」
「ああ、約束だ」
すぐに始めようとしたエルザだったが、ワタルに諭されたため、約束をすると布団に入ると、山賊との予期せぬ遭遇で疲れたのか、すぐに寝入ってしまった。
「(エルザの奴、今日はやけに機嫌が良かったな。まあ、布団付きの宿に泊まれたのは久しぶりだしな)」
相方を起こす訳にもいかず、静かに寝息を立てるエルザの後頭部を一瞥して寝返りを打ったワタルは心の中でそう納得すると目を閉じ睡魔に身を委ねようとする。
しかし……
「……行かな……ロブおじ……ジェラ……」
眠りに入るその直前、か細い声が聞こえたワタルは体を起こした。
睡眠を邪魔されたが不機嫌な様子は見られない。これまでにも何度かあった事であるし、なによりも過酷な体験をしたばかりの少女なら、悪夢に魘されるのは当たり前だと、むしろ心配していた。
しかし、自分に何ができるというのだ。奥深く踏み込む事が、こいつのためになるのか。自分から話してくれるのを待つべきではないのか。
そう迷いながらも自分を納得させると、自分も横になろうとしたのだが……
「――――ワタル」
「!」
突然自分の名を呼ばれ、ハッとエルザの寝顔を見てしまう。
悲しい夢を見ているのだろう。眼帯に覆われていない左目からは涙が滲み、片手をヨロヨロと伸ばしていた。
おそるおそる、彼女を起こさないようにそっとその手を取ると、できるだけ穏やかに声を掛ける。
「大丈夫だ、俺はどこにも行かない。俺は……俺は此処にいるから」
無意識に握られた彼女の手を恐る恐る握り返し、自分にも言い聞かせるように囁く。
しばらくすると寝言は止み、心なしか彼女の顔も和らいだ。
それに安堵すると共に急に気恥しくなったワタルは手を離すと自分の布団に入り、そして思案にふける。
「(また明日、か……。いつぶりだろう、そんなことを言うのは)」
ずっと独りだった。この広い世界を、たった一人で、少なくとも2年生きてきた。
大衆から疎まれ、恐れられ、そして憎まれてきたという一族出身である自分には、心を許せる者も頼れる者もできるはずも無かったのに――
「(ああ、でも……なんか安心するな)」
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