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EP.2 ワタルの魔法
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心で溜息をついた。
最初の騙し討ちの看破に始まり、先程までの戦いぶりに加え、今は気絶した山賊たちを予備の鎖で木に拘束しているワタル。
反乱を指揮したという事もあって『戦い慣れている』という自負があったエルザだったが、彼の前では経験の厚みの差を痛感せざるを得ず、少し疎外感を抱いたのだ。
だがそれでいい。そうでなくてはならない。
目を閉じた時、浮かび上がるのは彼の戦う姿と清廉な魔力。戦い――いや、蹂躙と言った方がふさわしい程に圧倒的な力と、エルザが見てきた魔法とは似ても似つかない、透明な魔力。
それは傷だらけの心に灯る道標か、それともただの幻影か…………ただ確かな事は、
『今この瞬間、ワタル・ヤツボシはエルザ・スカーレットの目標となり、憧れの対象になった』
という事だけだろう。
= = =
山賊たちを拘束し終え、近隣の街に駐留する軍隊に連絡した二人は、久しぶりに宿に泊まっていた。
あの山賊たちは街の悩みの種になっていたらしく、報奨金が出たのだ。
清潔なシーツの上に寝転がりながら、エルザは尋ねる。
「それにしても、あのバシッって鳴るやつ――“魂威”、だったか? 私にも使えないのか?」
「無理だ。“魂威”は集中した魔力をそのまま放出させる技だからな」
「放出?」
首を傾げるエルザに、ワタルは少し考えると口を開く。
「そうだな……魔力を拳に集中させるだけなら魔導士だったら誰でもできるけど、そのまま放出となると、もう努力と経験でどうにかできる物じゃなくて体質も絡んでくる。今じゃあ、使えるのは俺だけだろうさ」
魔導士は自分の魔力を能力系なら何らかの現象――炎や雷、氷などとして――具現させて、所持系なら物に纏わせて魔法を使う。
“魂威”は魔力そのものを、変換なしに純粋なままで打ち出す技のため、ある特別な体質と精密な魔力コントロールを必要とする。
特別な体質とはすなわち、ずば抜けて高い魔力感知能力を指す。
魔力を感知する能力は、魔導士なら大なり小なり誰でも身に着けている。それは五感の全てであると同時にどれにも当てはまらない感覚――いうなれば魔導士が持つ第六感。
“魂威”はこの感覚で自分の内側の魔力を隅々まで感知する、言い換えれば誰よりも自分を理解し支配下に置くことが前提条件だ。
だが魔力というものはとにかく繊細で、良し悪しを問わず感情や精神に大きく影響する。そのため、精神的に不安定な状態で無理に撃とうとすれば不発ないし暴発の危険性をはらんでいる技なのだ。
だが、“魂威”には、そのデメリットに見合うだけのメリットがある。
威力は高い事はもちろん、打ち出した魔力を操る事が出来れば
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