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EP.2 ワタルの魔法
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少女の顔を見て、男はそう算段を立てていた。
しかし、だ。
「下手な演技だ」
ワタルからすれば、それは取らぬ狸の皮算用でしかなかった。
「な……ガッ!?」
ナイフを持つ男の右手首の内側を左手を添わせるように取ると、切っ先を身体の外へ逸らしつつ、突進の勢いを殺さぬまま、踏み出された男の左足を左足で強く払ったのだ。
掴まれた右手を軸に男は宙を一回転。何をされたのかも分からぬまま、背中から地面に激突した。
「ぐ……このガキ、ッ!?」
だが悲しいかな、その程度で子供が大人の男の意識を奪えるはずもない。
投げ飛ばされた男は激昂して暴れ出そうとしたが……目を開け、視界に映ったのは自分を投げ飛ばした少年の小さな靴の底だった。
「一丁上がり、と。……雑な手入れだな、このナイフ」
男の顔面を踏みつけたワタルは鼻柱を折られた男が意識を失ったのを確認し、投げ飛ばした際に奪ったナイフを調べ始めた。
「……ッ、大丈夫か、ワタル!?」
「そう叫ぶな。それより、お出ましだ」
「何を……?」
ほんの数秒の事に呆気にとられていたエルザだったが我に返り、ナイフを弄っているワタルに慌てて駆け寄ってきた。そんな様子とは対照的に落ち着いているワタルの返事に、エルザは聞き返そうとしたが、両者ともそれ以上口にする事は無かった。
「これは……!?」
「ひい、ふう、みい――20か。結構多いな」
前方から大量の山賊が現れたのだ。
いや、前方だけではない。広いとは言えない山道の脇の林からも、さらには後方からも剣や棍棒を手にした山賊が現れ、ワタルとエルザは完全に囲まれてしまった。
そんな中で、先の不意打ちで手っ取り早く済まそうと考えていたのか、ワタルの身長よりも大きな両手剣を手にした大柄の男が不機嫌そうな表情で前に出るとワタルに声を掛けた。
「何故わかった?」
「よくある手だ。それに殺気がダダ漏れだった。あれじゃあウサギだって逃げるさ。まあ……」
そこで言葉を切ると、ワタルは口元を歪めて言い放った。
「アンタらにしても同じ事だが。つーか、なに? 子供二人に騙し討ちしなくちゃいけない程、おたくらは腰抜けな訳?」
「ンだとォ!?」
エルザを後ろに庇いつつ、依然としてナイフを弄びながらのワタルの返事に、山賊たちは得物を振り上げて怒りを露わにした。頭と思われる大柄な男も、青筋を浮かべて頬をひくつかせている。
「煽ってどうするんだよ……」
「いいから任せとけ」
包囲されただけでも危機的であるのに、その上煽るような真似をするワタルにエルザは不安になったが、当のワタルはどこ吹く風。怯えどころか動じた様子も見せない。
それどころか、涼しげな笑みすら浮かべて
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