原作開始前
EP.2 ワタルの魔法
[1/12]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「なあ、そういえば、ワタルはどんな魔法を使うんだ?」
大陸を放浪する少年魔導士・ワタルと、彼に拾われる形で共に旅をする事になったエルザ。旅を始めてから少しの間、二人の間には少し距離があった。
エルザからしてみれば、頼まれもしないのに怪我の治療だけでなく旅の付き添いまでするワタルは猜疑の対象なのだが、同時に恩人である彼を疑っている自分を嫌悪していた。
ワタルにしてもそんなエルザの内心を察した訳では無いが、無理に刺激する事も無いだろうと積極的に話しかける事は無かった。
もっとも、複雑な事情を抱える彼女への接し方が分からなかった、という対人経験の乏しさからなる事情もあったのだが。
そんな理由があって2人には少し距離があったのだが、同じ道を歩き、同じものを食べ、同じ場所で寝るという共同生活を続けていくうちに、話す分には戸惑いが無い程にはその距離は近くなっていた。
そして、旅をして数週間ほど過ぎていたある日、山道を歩いていたエルザはワタルが魔導士である事を思い出し、そう尋ねたのだ。
「そうだな……いや、見た方が早そうだ」
答えようとしたワタルだったが、手でエルザに止まるように示すと、彼女を庇うように前に出た。
「どうしたんだ、いきなり? ……あ」
急に警戒しだしたワタルにエルザは尋ねて肩越しに前を見ると、すぐに疑問は氷解した。
「坊ちゃん、嬢ちゃん……た、助けてくれ……山賊に、襲われて……」
服のお腹の部分を真っ赤に染めた一人の男がおぼつかない足取りで現れ、助けを請い始めたのだ。
「おい、大丈夫……ワタル?」
明らかに重症である男の様子に慌てたエルザはワタルの背後から飛び出して男に駆け寄ろうとしたが、それは叶わなかった。
そのワタルが手でエルザを抑えていたからだ。
「た、頼むよ……。これでも私は商人なんだ。礼なら幾らでもする! だから、頼む、助けてくれ……!」
「……」
「どうしたんだ、ワタル? 今ならまだ……」
不審そうに見るエルザをよそに、ワタルは数秒だけ赤い片手で腹を抑えながら、とうとう両膝をついて身体を丸めてしまった男の様子を観察すると、ゆっくりと呻き声を上げる男に近付き始めた。
一歩、二歩――と歩き、男までの距離が3メートルを切ったその瞬間。
「ヘッ、かかったな、ガキ!」
血まみれの男が突然起き上がり、隠し持っていたナイフを手にワタル目掛けて突進してきた。
大怪我をした商人を装っての不意討ち。
少年は殺して荷物を奪い、少女は奴隷にして売りつける。少女の方はまだ幼いが顔立ちは可愛らしい。その手の趣味の富豪なら高く買い取ってくれるだろう。
少年の向こうに見える、突然の事に何が起こったのか分かっていない
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ