1部分:第一章
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「全く何なんだよ」
彼は必死で駆けながら心の中で叫んだ。
「寝ても起きても化け物が追い掛けて来るなんて。どういうことなんだよ」
それが彼にはわからなかった。だが実際に化け物が家にいて後ろから追い掛けて来るのだ。これは本当のことであった。それは彼が今実際に追い掛けられているからわかることであった。
「どれが夢でどれが本当なんだよ」
健也にはそれがわからなくなってきていた。
「寝ても起きても化け物が来るなんて」
また化け物に追いつかれそうになる。
「こんなのが続くなんて。嫌だよ」
そう思っている間にも化け物の手が襲い掛かって来る。そこでまた意識が途切れた。
今度目が覚めたのは白い部屋の中であった。布団ではなくベッドの上にいたのであった。
「あれ!?」
「お父さん、お母さん、よかったですね」
若い女の人の優しい声が耳に入ってきた。
「目を覚ましましたよ」
「ええ、本当に」
見れば自分の側にお父さんとお母さんが立っていた。嬉しそうで、それでいて泣きそうな顔をしていた。
「本当にもう、この子は」
「心配ばかりかけて」
「どうしたの、お父さんもお母さんも」
健也はそんな両親の顔を見るのははじめてだった。キョトンとした顔で尋ねる。
「健也君」
さっきの優しい声が自分に語り掛けてくれた。見れば若くて奇麗な看護婦さんであった。彼のすぐ側に立っていた。
「貴方、車に撥ねられたのよ」
「車に!?」
「そうよ、それで今までずっと寝たままだったのよ」
「そうだったの」
「そう。一週間もね」
「一週間」
「心配したのよ、本当に」
お母さんが声をかけてきた。
「何時まで経っても目を覚まさないから」
「そうだ。怪我はあまりなかったから安心していたのに」
お父さんも言う。
「ずっとこのままなんじゃないかって思って」
見ればお母さんはうっすらと泣いていた。
「お母さん・・・・・・」
「健也君、皆本当に心配していたのよ」
「うん」
彼にもそれが本当によくわかった。
「御免なさい」
ぺこりと頭を下げて謝る。本当に心から申し訳なかったのだ。こんな気持ちになったのははじめてと言ってもよかった。それ程申し訳ない気持ちになっていたのだ。
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