2部分:第二章
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第二章
「普通琵琶法師といえば平家物語を語りますね」
「それが一番多いですね」
平家物語は琵琶法師達によって広められたといって過言ではないものである。その盛衰を語るのが多くの人の心を打ったのである。
「ところがその法師が申し出て来たのは源頼攻が土蜘蛛を倒す話でして」
「ほほう、蜘蛛をですか」
法師にとってもそれは珍しい話であった。その話は知っているがそれを琵琶法師が語るというのは聞いたことのないことであったのだ。
「それは確かに珍しいですな」
「それで聞きたいと思い聞いていたのですが話を聞いているうちに」
「どうなったのですか?」
「法師の姿が見る見るうちに変わっていきまして」
そう語る男の顔もまた見る見るうちに変わっていっていた。ただし彼は青くなっているだけであった。それは彼が人であるということであった。
「忽ち巨大な蜘蛛になってしまったのでございます。私は腰が抜けて逃げることもできずに」
「それで捕らえられたのですか」
「はい。土蜘蛛が倒されるその場面になると糸を放ってきまして」
語るその顔がさらに青いものになる。
「捕らえられ。もう少しで食べられてしまうところでした」
「危ないところだったのですね」
「ですが。助かりました」
男はここまで話したところで法師に対して礼を述べた。
「これも貴方のおかげです」
「いえ、私の力ではありません」
だが法師はそれは否定するのであった。
「貴方のものではないと」
「そうです。私がここに入ったのは偶然です」
そうしてこう述べた。
「いうならばこれは」
「御仏の加護でしょうか」
「その通りです。しかしそれにしても」
法師はここまで話したうえであらためて思うのであった。
「まさか土蜘蛛がここに出るとは」
「世の中というものは本当に何が起こるかわかりませんな」
「全くです」
法師は男の言葉に頷くのであった。
「そしてです」
「はい」
話はさらに続く。
「妖しい存在というものは自分からもやって来る」
「それも何時出るかわからないものですな」
そう二人で話すのであった。以後土蜘蛛のことを話す琵琶法師が出たという話はない。しかしそれは話に出ないだけかも知れない。若しかしたらいたのかも知れない。しかしそれを確かなものにする話もない。世に出る話というものも少なく真相はわからないものなのだ。結局のところはそうとしか言えないのもまた世の中なのであろうか。
琵琶法師 完
2008・1・11
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