SS:火と火が合わされば
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理由で警官が引き剥がそうとしているのだと。
理不尽も試練も、この世界の嫌なことが押し寄せる中で――
二度と離れることなく一丸になって燃え盛るんだ――
二人だから、二人なら、二人でこそ、『炎』なんだ――
一緒に燃え盛ってる瞬間だけ、ボクたちの心は――
何よりも強く固く、まるで一つになったように繋がってる――
それは、多分だけど俺と木棉季の繋がりを示す歌。俺たちが音楽を通して繋がった、絆の歌。第三者にはそこまで伝わらないだろうが、彼女の真摯で意志の籠った声が周囲を変えていく。つまり――あの少女は若い男を慕っているんだという端的な人間関係が歌を通して周囲に伝播していった。
警官は周囲の人だかりを無視しようと心掛けているらしいが、俺を強引に連れて行こうとすればするほどに、木棉季の声は大きくなっていく。
「歌うのを止めろ!!」
警官が叫んだ。
自分が悪役のように見られている状況が我慢ならなくなったんだろうが、それが決定的だった。
「うわ、なんだアイツ態度悪いな……歌うくらいいいだろ、子供のすることだし」
「女の子に対する口の利き方じゃなくない?マジでカンジ悪いわぁ〜」
「大体あの兄ちゃんは何したんだよ?」
「俺、話聞いてたけど……あの警官が難癖みたいに職質してさ」
「ちっ!あんなので給料もらってるんだからいいご身分だよな、警察ってさ?」
――普通なら、警察の行動は多少強引でも「公権力だから仕方ない」という諦めに隠れて小さな不手際は埋まっていく。だが、今のこの状況は、明らかな警官の不手際をいくつか表層化させていた。
俺は、今しかないと警官に声をかける。
「職務質問も任意同行も、拒否する権利があるはずですよね。貴方は俺に対して『根拠もない疑い』がおありのようですけど――離してくれません?」
周囲の非難の目が一斉に警官へ向く。
警官は自分の思い通りに事が運ばなかったことへの怒りと渋面で顔を醜く歪ませ、逃げるようにその場を立ち去った。
「やった!大勝利っ!!」
その背中を見た木棉季はしてやったりとVサインでにやっと笑った。
いたずらが成功した子供その物の笑顔は彼女らしく天真爛漫で、同時に強い充足感を宿している。
「お兄ちゃんにたくさん貰った借り、一つ返したよ!!」
「……ったく。下手したら俺のせいで今日の約束を守れないかもしれなかったってのにこいつは……」
「でも、お兄ちゃん後悔してないでしょ?正直ボクもムカついたし!つまりこれは借りを返したと同時に、ボクたちの勝利だよ!!」
「確かにそうだな。この勝負、俺たちの意地の勝利だ!ナイスアシスト、木棉季!」
俺が軽く手のひらをあげると、木棉季は嬉しそうにそこめがけてハイタッ
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