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キル=ユー
7部分:第七章
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のかね、今のあいつは」
「俺は最初の子供の時の顔が好きだったな」
「ああ、ジャクソン=ファイブ」
 覚えてる奴ももう殆どいない。そんなものだ。ハルク=アーロンが最初は黒人リーグにいたことを知ってる野球ファンなんてそうそういないのと同じだ。人間昔のことはすぐ忘れちまう。大体ジャクソン=ファイブの時はレコードだ。今はCD,本当に時代が変わっていた。
「あの時から才能は凄かったがね」
「まっ、マイケルはああした運命なんだろ」
 俺はここでまず突き放した。
「ハッピーエンドになって欲しいがね、ピーターパンなら」
「肩を持つね」
「これでもダンスも好きなんでね」
「オペラだけじゃなくて」
「イタリア系にとって音楽は無二の親友さ」
「じゃあ女は何だい?」
「唯一の大切なものさ。これで納得したかい?」
「大いにね。そうでなくちゃ」
「じゃあもう一本もらおうか」
 酒の強さには自信がある。ウイスキーもボトル三本は軽く空けられる。俺はもう一本頼んだ。
「早いね、今日も」
「イタリア系にとって酒は三番目の親友だからな」
「ワインだけじゃないのか」
「ワインは正妻、他のは愛人さ」
「贅沢なものだね。まあいいさ」
「どれがあるんだい?」
「丁度新しく入ったのがあるぜ」
「へえ」
 俺はそれを聞いて声をあげた。
「ユタのやつがな」
「ユタ!?」
 俺はそれを聞いて思わず眉を顰めさせた。
「今ユタって言ったよな」
「ああ」
「あそこでもウイスキーを造ってるのか?」
「最近造りはじめたらしいぜ」
「そうか」
 ソルトレークと恐竜の化石位しかないと思っていた。あんな山ばかりのところで酒が造られるのかどうか、疑問で仕方なかったがとにかくそこの酒らしい。
「どうだい、やるかい?」
「面白そうだな」
 だが興味は抱いた。
「それくれ」
「ああ、わかったよ」
 バーテンはそれに頷くとカウンターに並んでいる中のうちの一本を空けて俺に差し出してきた。
「ほら」
「・・・・・・・・・」
 俺はそのボトルのラベルを見て思わず沈黙してしまった。そこには『Y』と大きく書かれていたからだ。
(ここで出て来たか)
 俺は心の中で呟いた。奇襲だった。
「!?どうした?」
 バーテンは俺が急に黙り込んだのを見て声をかけてきた。
「これがユタのウイスキーだけど。いらないのか?」
「いや、もらうよ」
 俺は表情を明るく作ってそう返した。
「今日はこれ一本空けさせてもらうぜ」
「そうか。じゃあ安くしとくよ」
「いいのかい?そんなにサービスして」
 俺はそのウイスキーを自分でグラスに注ぎながら言った。
「これだって高いんじゃないのか?」
「いや、案外安いものだったよ」
「そうかい」
「三十ドルもしないよ」

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