第五十三話
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
場所を譲ったせいか、先ほどまでの激痛はまったく感じない。穏やかな状態だ。
まだ目は潰れているために、目を開けることはできない。しかし、うすあかりの中の様な景色が広がっている。これは目で見た世界ではないのか?
ゆっくりと俺であって俺でないものは起き上がる。
左手だけしかない。右腕は蛭町に食いちぎられて喰われてしまったのか、視界の中には見あたらない。
両足は付け根から千切れ、直ぐ側に転がっている。それを左手で掴むと、千切れた部位にあてがう。
ぶくぶくと泡立つ傷口。千切れていた筋肉の繊維や血管、神経がウネウネと動いて絡み合い接合されていく。めくれあがった皮膚も元通りになっていき、裂け目で繋がるとあっというまに平らになっていく。出血も瞬く間に止まっていくのが分かる。
恐ろしいまでの快復力だ。
完全に接合するまでに30秒とかかっていない。
【俺】はゆっくりと足を動かす。何の違和感もなく、両足が起動する。
左腕でバランスをとり、【俺】は立ち上がった。
左手で潰れた両目をゴシゴシと擦る。バラバラとかさぶたになっていたものが落ちていく。そして再び俺はまぶたを開いた。
……そこには再び光があった。僅かな時間で完全に潰された眼球が復活していたんだ。
首まわしてゴキリゴキリと鳴らすと、蛭町のミミズムカデがゆっくりと獲物を追い詰めるように王女に迫っているところだった。
王女はジリジリと後退をしている。
それでも漆多からゆっくりと離れ、彼に逃げるチャンスを作り出そうとしているようだった。あんなに糞味噌に言ってたのに、なんとか漆多だけでも助けられるように行動していたんだ。
でも直ぐに追い詰められていく。
蛭町は楽しそうにしているのが奴の無数の足の動きで分かった。
とんでもなくむかついてきた。
【おい、こら。……ロリコン野郎、おめーだよ】
俺が叫ぶ。
蛭町が驚いて飛び上がった。
慌ててこちらを見る。
そして俺が立ち上がっているのをみて眼を剥くのが分かる。
喉もとの蛭町の顔にも驚愕が見て取れた。
まさか起き上がるとは、それどころか話しかけてくるなんて想定もしてなかっただろうな。俺もしてないけど。
【糞野郎、しかし、派手に痛めつけてくれたなあ。今からきっかりと仕返しをさせてもらうぜ、へへ。見てろよ、糞虫】
俺が舌なめずりをする。
【うおんんとうおりゃー】
全身に力を込めた。全身に力がわき上がる。そしてそのエネルギーを右腕、付け根から千切れた部位へと移動させていく。
千切れた傷口が信じられないほど熱くなる。燃えるようだ。そして何か強力なエネルギーがそこに集中していくのが分かった。一体何が起こるのだろう。傍観者的立場で俺は其の情景を見ている。
千切
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ