第四十八話
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突然の反撃の真意を知った奴は噛みつく行動から回避行動へと意向させた。
驚くべき反射神経。
俺の手が奴の左頬にある瘤を掴む寸前で何とか回避し、顔面から壁に激突する。
俺が触れることができたのはその瘤が前後に移動していた死のラインのみだった。
触れただけでその糸はプッツリと切れた。
軋むような、呻くような音を立てて、蛇ムカデが転がっていく。
ムカデ様の胴体をくねらせる。
壁に当たった衝撃や痛みではなく、俺が抉った左頬のダメージなんだろう。
直ぐに起き上がった奴の蛇様の顔の左半分には巨大な鉈か何かで切られたような深い大きな傷が縦に刻み込まれ、赤い血がどくどくとあふれ出す。
ピンクと白の混じったものが内側に見えるが、その傷口はゆっくりと重なり合い修復されているようだ。出血が瞬く間に止まった。
化け物でありながらも血の色は俺たちと一緒。それが人間だからなのかは分からない。
蛇ムカデは再び俺を睨む。ムカデの胴体も含めてさらに体を持ち上げる。まるで蛇が鎌首をもたげるかのように。その瞳には驚きと恐怖の色がしっかりと張り付いている。
所詮生物である限り、死は訪れる。どんな化け物のような形状をしていたって死からは逃れられないんだ。そして、俺はその死を操ることができる。
化け物でも恐怖を感じることがあるのかな? ふとそんなことを考えた。明らかに蛇の顔をした奴の眼には動揺が現れていたんだから。
このまま押せば勝てるはず。
俺は奴に向かって一歩踏み出す。すると奴は押されるように少し後退し、距離を保とうとする。あと少しで俺の間合いに入ることがわかるんだろう。
威嚇するように空気を裂くような音を立てる蛭町。
……必死だな。
虚勢を張れば張るほどこちらに余裕が出てくる。爬虫類っぽい顔になったのになんだか汗ばんでいるようにさえ見える。
ふっ、なんか軽くやっつけられそう。
俺は笑みを浮かべてさらに一歩踏み出す。
ビクンと蛇顔に蛭町の眼が大きく見開かれたように見えた。その眼は俺を見ず、自分の体の下を見た。
つられて俺も奴の顔の下へと視線を向ける。
奴の喉下。
それはかつての蛭町本人の顔のある場所だ。
土色に変色し、デスマスクのようになっていた奴の顔に生気が蘇っていく。ピタリと閉じられていた瞳がやがてゆっくりと開かれていく。
その瞳の色はかつての人のものではなく、真っ赤な色の虹彩で、瞳孔は人間のような円形ではなく、スリット型しかもヤギみたいな水平方向の瞳孔で、その色は銀色だ。その眼で俺を見つけるとニッコリと微笑んだんだ。
いまさらながら人間じゃないことを実感させられ、悪寒が走った。
「月人、まったくお前はつええな。ムカつくほどつええな。
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