第四十七話
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
奇声が地下室に響く。
それは人が発したとは思えないような音。
蛭町の頭頂部は左右にバックりと割れ、そこからは二股の真っ赤な舌がうねうねとはい出している。口の上下には2本づつの長い牙。そして耳の直ぐ側に大きな眼がいつのまにか形成され、俺のほうを睨み付けている。
そう、顔は明らかに蛇のそれだ。
鎌首をもたげ、俺を見下ろそうとする。
体はムカデで頸から上は蛇……。
なんとアンバランスな生き物だろうか。
しかも体型は寸胴で芋虫みたいに見える。芋虫のようにでっぷりした体に何十本もの脚が生え、頸から上だけが蛇というのが正確な描写なのかな。
どっちにしてもかなりグロテスクな生き物だ。
鎌首をもたげたそれの喉元を見ると、そこには蛭町の顔が人形のように無表情な表情で張り付いていた。
まるでお面、デスマスクのようだ。
気持ち悪い……。だけどその程度の存在にしか思えない。
顔は蛇で体はムカデ。
確かに全長は3m近くまで伸びて無数の脚が伸びている。その形態は家の中でムカデを見つけた時とは比較にならないほどの驚きと嫌悪感を感じさせた。でもなんかムカデにしては寸胴すぎる。なんか脚の生えたナマコみたい。
シャー!
威嚇するような音を立てて、かつての蛭町、いまは蛇ムカデが俺を睨み付ける。二股に別れた舌がシュルシュルと伸び縮みする。
喉元に張り付いた蛭町の眼がゆっくりと開かれる。
そして、ニヤリと笑った。
次の刹那、奴は飛んだ。
蛇の口を思い切り開き、俺に噛みつこうとした。
すんでのところで俺は左へと飛び退いてその攻撃をかわす。転がりながら直ぐに立ち上がり、奴を見据える。
飛んではいなかった。ムカデの体はそのままで、頸から先が一気に伸びたんだ。長さにして2m超。
シュルシュルと音をさせて蛇の頸が縮み、もとに戻る。
「奇妙な生き物だな。でもそんなんじゃ俺を捕まえることなんてできないぜ」
挑発するような言葉を吐く。はたして人としての意識がまだ残っているか?
俺はゆっくりと移動していく。王女と漆多がいる出口のと反対側へ。そして眼をこらしながら奴を見たんだ。
よく見える。ハッキリと見える。
蛇ムカデの体に無数の死のラインが。破滅の瘤が。
確実に殺れる。
距離をとりながらタイミングを計る。
現状ではまだ奴がどんな攻撃をするか予測できない。不用意な攻撃は危険な場合が多い。でも様子を見ながら闘っている余裕はない。
漆多は怪我をしているようだし、ここは逃げ場が無い地下室。無為に戦いを長引かせれば彼らを危険にさらす可能性が高い。
少々のリスクを冒しても一気にケリをつけるほうが無難だ。
ねらいは奴の、かつての蛭町だった顔の上に見える瘤
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ