第四十四話
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「ククク、酷いな、……マジで殺す気だったんだな、お前」
俺は危険を感じ、とっさに蛭町から飛び退いた。
蛭町は体を左右に揺すり、めり込んだ壁から脱出した。首は変な角度に曲がり、両腕も関節じゃない場所で折れ曲がり、白いものが突きだしている。
「容赦ねえやつだな」
そう言いながら腕を交互に引っ張ってはみ出した骨を格納する。ぶしゅぶしゅと音を立てながら割けた皮膚が治癒していく。
腕が治ったと判断すると、今度は両手で頭を掴むと、折れ曲がった反対方向へとねじ曲げた。
「痛って」
軽く呻くとゴキリと妙な音がした。
「ふう……。なんとか直ったようだ」
そしてニヤリと嗤った。
「くそ、ホントに化け物だな……」
俺はある意味あきれていた。
余裕を見せてはみたけど、俺は本気で攻撃をかけた。実際に殺すつもりで殴ったんだ。確かにダメージを与えたようだけど、ものの数秒で復活、しかも完全復活した。……ありえない回復力だ。前回戦った如月の時と比べると、遙かにその回復力が高まっている。普通の打撃系の攻撃では奴の回復力を超えてダメージを与えることは無理みたいだ。
仕方がない。
俺は眼に力を込める……。左眼が熱くなっていくのが感じ取れる。
左眼の視野が碧い光を帯びてくる。ひんやりとした風が頭の中に入ってくる感覚。脳内が一気にクールダウンされ、焦りが次第に消えていく。そして、目の前の世界にひび割れのような黒い黒いラインが這い回り出す。ラインを大小様々の瘤のようなモノが、あるものはゆっくりと、あるものは高速でそのライン上を行ったり来たりしている異様な世界が展開され始める。
目眩と落下する浮遊感を感じる……。
そう。
今見えるものは【死】。
動いているものも【死】。
脆い脆い生物の、いや万物の死を暗示するもの。
それは人には見えない。
もちろん触れることなど絶対にできない。
それどころか、視ることも、存在すら知ることのできないもの。
【死】【死】【死】【死】【死】【死】【死】【死】【死】
それを視ることができる。……否、それどころか触れることができる。
そしてそれはあまりに脆いもの。少しでも乱暴に扱えばあっという間に、粉々に砕け散るんだ。
粉々にね。何もかも。
俺は死を操ることができる。死=万物の終焉。
蛭町の体にもいくつものラインが這い回るように絡みついている。そしてその線の上をいくつもの奇怪な瘤がゆっくりと回遊するかのように漂っている。
勝てる……。
いかなる快復力をもってしても、その根源が絶たれてしまえば、復活はできないんだから。
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