4部分:第四章
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い方向に転がって何よりだ」
運がよかった、そう言っていた。それと共にその幸運に感謝もしていた。
「本当にな」
「そうですね。偶然がいい方向に転がって」
「何よりだよ、皆にとってな。当然ワレサさんにもな」
「私にもですか」
「だってそうじゃないか。褒美を貰えるんだ」
話が褒美のそれに戻った。
「いいことじゃないか」
「まあそうですね」
「飲むんだろ、今日も」
「はい」
これはもう決まってることだった。彼にとっては当然の答えだった。
「そのつもりです」
「だったら飲めばいいさ、これから好きなだけ飲めるんだ」
「そうですね。それじゃあ」
「遠慮することはないさ。ワレサさんが運がよかったんだ」
今度は運に話が戻る。話が行ったり来たりだ。
「本当にな。じゃあ今日は」
「今日は?」
「俺も一緒でいいか」
親しげな笑みを浮かべて彼に言ってきた。
「酒を。二人でな」
「いいですね、それ」
そしてワレサもそれに乗る。
「じゃあ二人で」
「俺の分は俺が払うからな。それでな」
「褒美ですから別にいいのに」
「俺も。無欲な性分でな」
また笑っての言葉だった。
「こういうことで誰かに頼りにはなりたくないんだよ。だからな」
「そうですか」
「ああ。じゃあ帰りにな」
「ええ、帰りに」
「二人でビールを飲みに行こう」
二人で約束して分かれた。ポーランドの古い話だ。一人の素朴で無欲な酒好きの男が何となしに素直に答えたことで多くの人の命と国が助かった。世の中時としてこんな偶然があるということだ。それは何時何処で起こるかわからない。このポーランドだけとは限らない。全ては偶然のままである。
小さな棺桶 完
2008・5・6
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