第3章 黄昏のノクターン 2022/12
22話 白亜の水都
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つつ、この中に未だ見ぬ隠しクエストの一端があるやも知れぬと思うと、プレイヤーのいない今のうちに探索を開始したいところだが、現時点では既に認識しているものを優先する。そもそも、一旦降りてしまえば、そこから先はもう一度払わされそうだ。金額的にも決して気軽に利用できるものではない。
「このお船って、おじさんの物なの?」
「んにゃ、違うぜ嬢ちゃん。コイツは俺っちの相棒には違いねぇが、正確にゃ水運ギルドの持ちモンだ」
ヒヨリの質問に、船頭が快活に答える。
水運ギルド、イメージとしては運送業とタクシー業のハイブリッドといったところか。当然、水路の存在しなかった第四層にはそんな組織は存在していなかった。どうやら水の影響はマップの変更だけに留まらなかったようだ。
「その水運ギルドって、たくさんお船を持ってるの?」
「まぁな。この街にある船のだいたいは水運ギルドのなんだぜ」
鼻高々といった風に語る船頭の話に耳を傾けつつ、水路で擦れ違うゴンドラを眺める。単に交通の便として機能するものは見受けられないものの、木箱を始めとした荷を運搬する姿がそこかしこで見受けられる。運送業としては随分と手広く事業をしていることが窺える。
………と、脇道にあたるであろう水路で、船に荷を積載するNPCの姿を偶然見つけた。こんな裏方まで丹念に作り込まれていることに多少の驚きを覚えつつも、ふと目に映った作業風景は不思議な引力めいたものによって俺の視線を奪う。それこそ俺が被ってもしっかりと隠れられそうな木箱を相手に数人が蓋を嵌め、数人が船に山の如く満載する。しかし、船が水路を進むにつれて観測可能な地点も移動したことで、どうにも解せない点に気付く。
――――木箱に蓋をする男の元に運ばれてくる箱は、向きも揃えられていない乱雑そのものだったのだ。
運搬される箱には何も入っていない。内に物があれば道中で零れでもするだろうが、そんな素振りさえない。どう見ても空箱だ。そこに何を入れるでもなく、ただ機械的に蓋を閉じては船に積み込む。それが如何なる意味を為すのか俺には皆目見当も付かないが、水運ギルドの事業であれば、この船頭も知っているだろう。
「なあ、あの空箱はどうするんだ?」
「すまねぇ、そいつは答えられねぇな」
教えてくれなかった。とはいえ、NPCの応答パターンの枠を外れた質問というのは、それとなく答えてくれないものなのだ。感覚が麻痺してきているが、自分からNPCに質問したり、自分の知らないものであろうと律儀に悩んで答えを捻り出そうとするティルネルが異常なのである。
「お待ちどうさん! また乗ってくれよ!」
目的地は意外と近い所にあるため、船旅は早々に終了。陽気な台詞を残して去ってゆく船頭が手を振って遠ざ
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