第3章 黄昏のノクターン 2022/12
22話 白亜の水都
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彙力と胆力が俺にはないが、一応は彼女達の為にも腹を括らなければならない時というのはあるのだろう。やむなく、伝えることにした。
「………その、頼むから着替えてくれ………服が、ほら、な?」
………伝えようと苦心したのだが、これが俺の限界か。やましさが無いことさえ伝わってくれれば幸いだが。
「服? ………あ、濡れちゃってる」
「ごめん、見るつもりは………え?」
「風邪引いちゃいますから、向こうで着替えましょうか」
「うん!」
「………………はぁ?」
思った以上にアッサリと、ヒヨリはティルネルと一緒に最寄りの岩陰に入り込んだ。俺も一応は男であるのだが、殊更気にされていないというのは危機感を持つべきだろう。あまりに無防備過ぎて俺の方が肝を冷やす。
しかし、これでは当人以上に気にしていた俺の方が過剰に意識していたようで、なぜだか釈然としないものの、向こうが気にしていないのならそれ以上触れないでおこう。自ら地雷原に踏み込む義理もない。
………と、これまでの人生では経験したことのない居た堪れなさから思わぬ肩透かしを食らい、女性陣から距離を取ること四分。着替えが終えたことをティルネルが伝えてくれたことで、ようやく主街区へ踏み入れる運びとなった。女性陣を先導する形でベータ時代の名残とも言える砂の坂を登りつつ、ベータ時代のロービアを再び想起する。しかし、やはり地味で埃っぽい街としか言いようがない。建物は何故か二階に設けられたドアからしか入れないし、そのくせ妙に凝ったデザインの柱や壁の掘りが返って辛気臭い雰囲気を漂わせ、宿は――――というかロービアに存在する大半の建物で言えるのだか――――すべからく大きく設けられた窓の所為で砂が入り、レストランでは簡素を通り越して貧相な料理がメニューを埋める。とにかくまともな印象を持てなかった。そういった面では第三層の巨樹をまるごと街にした《ズムフト》や、第二層のテーブルマウンテンを縦に刳り貫いた《ウルバス》の方が印象に残るだろう。言わずもがな、サービス面でも軍配は下層の主街区にあげざるを得ない。
――――しかし、ベータテスターとしてのイメージは、その光景に容易く崩されることとなる。
煤けた灰色だった建物の壁は白に変わっており、四角く縁取られた街を縦横無尽に走る水路の波で反射する陽光が建物を輝かせた。二階に玄関が設けられていたのは、一階が水面より下になるため。当時は好印象を持てなかった建物の細やかな意匠も相俟って、まるで宝石と形容しても相違ない。景観の美しさでいうならば、これまでのどの層の主街区をも凌駕するだろう。これならば、物件にも大いに期待が持てる。隠しクエストへのトリガーを最良の形でクリアできるはずだ。
………まあ、涸れ谷から変貌を遂げた第四層にベータ時代の隠しクエ
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