月下に咲く薔薇 16.
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アウトの最中だな』
斗牙が呟くも、それはミシェルの耳にまでは届かなかった。
ミシェル機が着地し、バトロイドの指がクァドラン・レアのコクピット・ハッチを強制的に開かせる。
『クラ…』
スナイパーの声が半ばで閉ざされた。
クロウも、拡大映像でその異常を目の当たりにする。
やられた、との思いがまず先に立った。
クランがいない。戦闘中にコクピット・ハッチを開けもせず、クァドラン・レアの中から1人の女性パイロットが消え失せたのだ。
『クラン大尉がいない?』
SMSからの報告に戸惑うスメラギの元に、バトルキャンプ内のロジャーから更に悪い知らせがもたらされた。
『21世紀警備保障の中原社員もだ。すまない。私達が傍についていながら、何者かに彼女を奪われた』
『あの光は、目くらましじゃなかった!』シンが、デスティニーのコクピットで強く吐き捨てる。『戦闘中の機体からパイロットを抜き取るとか、そんなのアリか!?』
『ずるいわ』琉菜が、ソルグラヴィオンの中で両手の爪を膝に立てた。『手品みたいな事をする敵が相手じゃ、私達、力を持っていたって何もできないっ!!』
『ちょっと待って。私達にできないかどうかは、今決める事じゃないでしょ?』
『えっ…?』
皆が勝ち気な女性の声に、葵の顔を思い浮かべる。
増援に加わるつもりだったのか、葵はトレミーに収容されているノヴァイーグルのコクピットにいた。
『それには僕も同感だな』明朗快活な万丈が葵に賛同し、ZEXIS全体に広がっていた悲観ムードは幾分か和らいでゆく。『敵と我々を繋ぐ糸は、まだ健在だ。それを生かす手立てを考えようじゃないか』
『ああ。…そうだな』
俯いたままだったミシェルのバトロイドが、すっと立ち上がり上空を仰ぐ。
「あ…」
一瞬ではあったが、クロウはそのバトロイドと目が合った。
最初に花を贈られた者が、ZEXISとあの敵を結ぶ糸の中で最も太い物に目をやる。少年が何を言いたいのか、その仕種だけで全てが伝わってきた。
ふと、去り際のアイムが呟いた誘惑を思い出す。
『「揺れる天秤」、貴方はじきに必ずや私を必要とします。その時まで無駄にあがき、無知と無力に翻弄されなさい』
今、ミシェルは考え始めている。
ZEXISが、いつどのようにして持てる全てを出し尽くし敵と対峙すべきなのか、を。
確かに、あがき翻弄されている時間など費やしてはいられないのかもしれない。
− 17.に続く −
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