月下に咲く薔薇 16.
[7/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
上空をホワイト・アウトさせる。ブラスタのモニターも色彩と影を失い、クロウは怪植物どころかアリエティスさえ視認する事ができなくなった。
「な…、何が始まったんだ…!?」
光の狂騒は、眩しく激しい。
その最中、クロウは澄んだ音を聞いた。
いや、聞いた気がした。
ハンド・ベルか、グラスの音か。さほど大きくもない響きが、何かの旋律でも奏でるようにブラスタのコクピットで光と相まって軽やかに踊る。
優に30秒以上は続いただろうか。
音がやみ光の暴発が終わった後、バトルキャンプの滑走路には大穴を穿った跡が残った。基地の照明がようやく照らしているだけなので、直径の大きなその穴は黒く大きな丸とも映る。
ソーラーアクエリオンの拳どころか茎の一部さえ、一切落ちていなかった。70メートルはあったというのに、バラの塊は忽然と何処かに消え去っている。上空を押さえていた機体があるのだから、飛び去った筈はない。
あの異世界へと跳躍したのか。
『油断するな! アリエティスは、今も基地上空にいる!』
クワトロの声に、「ちっ!!」とクロウは舌打ちする。ブラスタのモニターとレーダーで確認すると、ブラスタの足下、地上を見下ろした際ようやく頭部が見える位置にアリエティスは留まっていた。
左肘から伸びた刀身は先端が僅かに欠けており、たった30秒程の間にクロウの知らぬ戦いを単機で行っていたらしい。他の赤い刀身も発光はしているが、透明度ばかりが目につき随分と控えめな光量に下がっている。
棒立ち同然で空中に浮いているアリエティスは、持てる全てを使い尽くした感があった。機体のエネルギーばかりか、パイロットが持つ体力の最後の一滴までもを。
かつて、これ程無防備なアイム機をクロウは見た事がない。
『いっそ、ここで少し捻っとくか』
ダイグレンから、竜馬が出撃中の仲間をけしかける。
『それが、救援の手を差し伸べようという部隊の本音ですか?』
目に疲労の色を滲ませながら、アイムが不満を表に出した。
共通の敵が撤退した為、ZEXISの包囲網はアリエティスのみを敵機として捕捉している。地上と基地上空で退路を断っている形になるが、元々アリエティスにも空間転移の能力が備わっている。いざとなれば、この包囲は無意味なものと化すだろう。
「情報を出し渋るから人の神経を逆撫でするんだ。アイム」
『…状況は変わりました。私も一旦退きましょう』男の表情が、一瞬で余裕を取り戻した。さては疲労度を偽ったか。『「揺れる天秤」、貴方はじきに必ずや私を必要とします。その時まで無駄にあがき、無知と無力に翻弄されなさい。では』
アリエティスが上昇したかと思うと、機体は既に消えていた。
まるで、マジックの美女消失だ。暗闇の中、ブラスタ以上の機体サイズで「ここにいる」とクロウや仲
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ