1部分:第一章
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の大きなコップに入れてごくごくとやっていた。顔はさらに赤くなる。
「違うか?」
「やれやれだね、全く」
「子供達も大きくなった。だったらもう気兼ねなく飲めるじゃないか」
「小さい頃から飲んでたじゃないか」
女房はこう突っ込みを入れる。
「嘘を言ったら神様に怒られるよ」
「何だよ、今日は随分厳しいな」
「遅いからだよ」
厳しい理由はそれだった。亭主の遅い帰宅に角を立てているのである。
「全く。食べ終わったら早く寝なよ」
「わかってるさ。じゃあな」
「あたしは先に寝るからね」
女房は先に藁で作ったベッドの中に入ってしまった。藁の上に白いシーツをかけただけのものだ。この時代の庶民のベッドだ。ワレサも遅い夕食を食べ終わるとその中に入った。それで暫くしてうとうととしだした頃だった。今度は枕元で囁く声が聞こえてきたのだ。
「いいか、明日のことだが」
「うむ、さっきの続きだな」
「そうだ。その舟を操る船頭に金貨を千枚くれと言え」
「千枚だな」
「そうだ、千枚だ」
そこが強調されていた。
「千枚と言うのだ、いいな」
「わかった、千枚だな」
「また随分と大金だな」
ワレサはその話を聞いて心の中で思った。しかし今はそれを聞いているだけだった。何も言わずに寝ながら聞いているだけだった。
「若しそいつが出し惜しみをすれば」
「どうするのだ?」
「これを見せてやれ」
そう言って三つの紋章を家の壁に描いた。ワレサもそれを見た。見ればそれはどれも何処かの家の家紋である。
「この三つを見せてやればいいからな」
「ふむ、その三つをだな」
「それだけでいい。わかったな」
「承知した。それではな」
「うむ」
これで話は終わった。ワレサは話が終わったのを確認した。とりあえずは夢か何かだと思うことにした。酒をかなり飲んでいることも自覚していた。それでもう完全に寝ることにして目を閉じた。翌朝起きると朝飯の固いパンをミルクで溶かしたものを飲んでから仕事に向かった。舟を行き来する間昨夜のことを考え客人にも気をつけていた。やはり昨夜のことが気になっていたからだ。
「さて、どうなるかな」
こう考えるのだった。
「来るかどうか。あの話が」
そのことを考えていると日が西になる。その時に岸辺に大きな葛篭を背負った小柄な男がいた。ワレサはその男を見て心の中でもしや、と思った。それで好奇心に誘われて彼に近付くのだった。
「向こう岸までですね」
「その通りです」
見れば陰気な顔をしている。顔の色は土気色だ。どうにも薄気味悪い印象を受ける。だがそれでも話の通りになるのかどうか興味を持っていたのと仕事なので彼を舟に乗せた。そうしてまずは向こう岸までやったのだった。
そして向こう岸に着いた。すぐに渡し賃を要求しようとした。だ
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