第163話 復讐の顛末 中編
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「こんな夜更けに何事だ?」
正宗は動じた様子もなく、冷静な様子で近衛兵に声をかけた。
「収監しておりました蔡一族が逃亡いたしました」
近衛兵は乱れた呼吸を整えながら正宗に報告した。その様子から一目散に正宗の元に駆けてきたのだろう。
「逃亡だと!?」
正宗は朱里と桂花と伊斗香の三人と示し合わせ蔡一族が逃亡することは既知のことだったが驚いた様子で近衛兵に声をかけた。彼は寝間着姿のまま陣幕を潜り外に急いで出た。外で片膝をつき拱手していた近衛兵は彼の姿を確認すると慌てて深々と頭を下げた。
「?異度様からご伝言でございます。蔡一族を追撃するため追撃隊を編成し出立するとのことでございます」
「?異度は既に兵を率いて出立したのか?」
正宗は伊斗香が既に出陣したのか確認した。
「その通りにございます」
近衛兵は正宗に即答した。
「見張りはどうした?」
「見張りの兵は酒に酔って眠っておりました。尋問したところ近隣の村の住民と名乗る者達が酒を差し入れしてきたとのことです。その酒を彼らは飲み睡魔に襲われ、彼らが目覚めた時には檻が壊され蔡一族達が既に逃げた後だったとのことです」
近衛兵は拱手し顔を伏せたまま報告した。報告の内容を聞く限り、酒を持ち込んだ者達は胡散臭さ満載である。この付近の村は正宗による襲撃のせいか、攻撃対象でない村々の住民まで襄陽城に向けて逃げだしていた。この辺りの村々に残っている者達はかなり少ないのだ。伊斗香との段取りなしにでこのような事態に陥れば正宗も違った反応を示したに違いない。
「見張りの者達はどうしている」
正宗は冷静な声で近衛兵に聞いた。それを正宗が激怒していると感じたのか近衛兵は自らの落ち度でないにも関わらず恐縮している様子だった。
「清河王、見張りの兵は拘束しております。如何なさいますか?」
近衛兵は神妙な様子で正宗に意見を求めた。暗がりのせいで彼の表情は確認できないが正宗から処刑の命令を受ければ、直ちに失態を犯した兵達を処刑する腹づもりに見えた。処刑を待つ罪人を酒に酔って逃亡させたのだ。近衛兵の反応は適切といえた。
「拘束は解いてやれ」
近衛兵の心中とは裏腹の命令を正宗は出した。
「よろしいのですか!?」
近衛兵は正宗を驚いた表情で見ていた。敵を逃亡させたに等しい者達を見逃すと言っているのだから近衛兵の反応は正しいといえた。
「ここを逃げたところで奴らの逃げる先は襄陽城しかあるまい」
「ですが。見張りの兵は罪人を逃亡させる大罪を犯しております」
近衛兵は正宗に意見した。
「差し出された酒に酔いつぶれた隙に罪人を取り逃がしたなどと外に漏れれば我が軍の威信に関わる。ならばことを握り潰し、初め
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